原子力規制委 田中体制の5年=岡田英(東京科学環境部)via 毎日新聞

(抜粋)

 その田中氏は15年10月には福島県内14市町村の首長を訪問。「規制委員長の枠を超えてできることはないか」と、避難者の帰還政策などについて話を聞いたことも規制トップとしては異例だが意欲は感じられた。一方、葛尾(かつらお)村を訪れた際に私が話しかけると、青く染めた水57ミリリットルが入った小瓶をくれた。汚染の少なさを示す工夫なのか、「福島第1原発にある(放射性物質の)トリチウムを全部集めた量。少ないのが分かるでしょ。村長にもあげた」と話した。

 確かにトリチウムは自然界にも存在し、人体への影響はほとんどないとされる。このわずかだという量が混じったトリチウム水は敷地内のタンクにためられ、約80万トンもある。このため田中氏は「科学的に排水基準以下なら安全上問題なく、海に流すべきだ」と主張したが、風評被害を懸念する漁業者らは反対。科学的な説明だけで地元の信頼を得るのは難しいと感じた。

柏崎刈羽の審査、一貫性ない対応

 2年間の福島勤務を終えて東京に転勤し、再び規制委を取材すると、さまざまな疑問が膨らんできた。その一つが柏崎刈羽の審査だ。規制委は「事故を起こした東電は他の電力会社と違う」と、規制基準にない原発事業者の「適格性」を見極める対応を取った。今年7月には、経営陣を呼んで「福島の廃炉をやりきる覚悟と実績を示せなければ、柏崎刈羽を運転する資格はない」と迫り、トリチウム水の海洋放出問題で地元同意を取ろうとしない姿勢などを挙げて「東電に主体性がない」と対応に関する回答を求めた。

 審査で「科学的に」と強調してきた規制委には異例の対応だった。そこまではいい。ところが、8月の2回目の面会では、回答書にトリチウム水海洋放出問題などへの具体策がない点は同じなのに、東電側の決意表明だけで適格性を認める方向に転換した。これでは、対応に一貫性がないと批判されるのも当然だ。

「安全」の原点に新体制立ち返れ

 もっと驚いたのは、委員長就任が決まっていた更田氏が適格性の判断にあたり「他の事業者でも福島第1原発事故を防げたとは考えにくい」と述べたことだ。東電の責任逃れにつながる恐れがある。別の場面では、更田氏の後任委員の山中伸介・前大阪大副学長(61)が就任前の記者会見で、原発の運転期間について「(40年の制限は)世界的に見て、少し短いと個人的に思っている」と述べた。老朽化による事故を防ぐため、震災後に導入された40年ルールを否定するような発言だ。福島の教訓をないがしろにするかのような態度が相次ぐのを見るにつけ、発足5年で福島事故の風化が懸念される。

 城山英明・東大教授(行政学)は「柏崎刈羽原発の適格性の見極めのような(明確な基準のない)心証が中心の判断になるほど、規制委が国民に信頼されることが重要になる」と指摘する。国民から信頼を得るよう、電力会社に求めるだけでなく、規制当局自身も回復に専心してほしい。

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