東京電力福島第一原子力発電所の事故で、千葉県に避難した45人が生活の基盤を失うなど精神的な苦痛を受けたと訴えた裁判で、千葉地方裁判所は東京電力に対して、原告のうち42人に総額3億7600万円余りを賠償するよう命じる判決を言い渡しました。一方、国への訴えは退けました。
この裁判は、原発事故の避難区域や福島県のそのほかの地域から千葉県に避難した18世帯45人が、住み慣れた家や仕事を失い、ふるさとでの生活が奪われたとして、国と東京電力に総額28億円余りの慰謝料などを求めたものです。
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東京電力については「津波対策を完全に放置したとまでは言えず、重大な過失があったということはできない」と指摘しました。
一方で「住民がこれまでの暮らしやコミュニティーを失った精神的苦痛は事故と関係があり、東京電力が賠償すべきだ」などとして、原告のうち42人に総額3億7600万円余りを賠償するよう命じる判決を言い渡しました。このうち原告30人余りについては国の指針などに基づく慰謝料に加えて1人当たり最大で1000万円の増額を認めました。
また避難区域ではない地域から自主的に避難した1世帯4人についても個々の具体的な事情に応じて賠償の対象となるとして、1人当たり30万円の慰謝料を認めました。原発事故をめぐって全国の18の都道府県で1万2000人余りが起こしている集団訴訟では2例目の判決で、国と東京電力の責任を初めて認めたことし3月の前橋地方裁判所の判断とは異なり、国の責任を認めませんでした。
原告団「到底納得できず控訴」
判決を受けて原告団が支援者らを集めて千葉市内で報告集会を開きました。
原告の弁護団の事務局長を務める滝沢信弁護士は「千葉地裁は原発事故について国の責任を認めていないので不当判決だと思う。私たちも原告の人たちも到底納得できないので控訴します」と話しました。(略)東京電力「判決内容精査し対応検討」
判決を受けて東京電力は「当社、原子力発電所の事故により、福島県民の皆さまをはじめ広く社会の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて心からおわび申し上げます。きょう、千葉地裁で言い渡された判決については、今後、判決内容を精査し対応を検討してまいります」というコメントを発表しました。原子力規制庁「原発審査 厳格に進める」
今回の判決について、国の原子力規制庁は「今の時点で詳細は十分承知していない。いずれにしても福島第一原発の事故を踏まえて策定された規制基準に基づく原発の審査を厳格に進めることにより、適切な規制を行っていきたい」とコメントしています。前橋地裁の判断との違い
今回の判決は原発事故に対する国の責任を認めなかったうえ、東京電力の事故前の津波対策についても「重大な過失があったとは言えない」として、国と東京電力の対応を厳しく指摘したことし3月の前橋地方裁判所の判断とは大きく異なる結果となりました。前橋と千葉の地方裁判所で起こされた2つの集団訴訟では、東京電力に対する国の規制の在り方が適切だったのかが争われ、ことし3月の前橋地方裁判所の判決では「国は福島第一原発の敷地の高さを超える津波を事前に予測することが可能だった。東京電力に対策を命じていれば事故を防ぐことができた」として国の責任を認めました。
千葉地方裁判所の判決では「事前に津波を予測することは可能だったが、国や電力会社が投資できる資金や人材は限られ、すべてのリスクに対応することは現実的には不可能だった。仮に対策をとっていたとしても、東日本大震災の津波の規模から考えると事故は避けられなかった可能性がある」として国の責任は認めませんでした。東京電力の責任についても判断が分かれました。
前橋地方裁判所は東京電力の津波対策について「常に安全側に立った対策をとらなければならないのに経済的な合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応で、今回の事故の発生に関して特に非難するに値する」と厳しく指摘しました。
千葉地方裁判所は、東京電力が事故の前、想定される津波の検討を土木学会に依頼していたことなどから「津波対策を完全に放置したとまでは言えず、重大な過失があったということはできない」としました。 原発事故をめぐる集団訴訟は前橋と千葉を含めて全国18の地方裁判所で起こされ、今回の判決が今後の裁判に影響を与える可能性があります。国の指針以上の慰謝料認める
原告への慰謝料について22日の判決では「長年住み慣れた家や地域での生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛も賠償の対象となる」として国の指針を上回る金額の支払いを命じました。
専門家「損害広く認めた」
原発事故の賠償に詳しい東洋大学法学部の大坂恵里教授は判決について「損害を広く認めたことに特徴がある」と話しています。(略)また自主的に避難した人にも賠償が認められたことについては「今回は避難したことに合理性があれば賠償を認めるという判断を示していて、個別の事情を考慮した判決で評価できる」と話していました。(略)各地で訴訟 来月は福島で判決
原発事故で被害を受けた人たちは事故の責任を問う裁判を各地で起こし、来月10日には福島で判決が言い渡されます。(略)一連の集団訴訟では来月、全国で最も多いおよそ4000人が原告となり、「生業訴訟」と呼ばれる裁判で、福島地方裁判所が判決を言い渡します。
この裁判では国と東京電力に対して、千葉の裁判と同じようにふるさとでの暮らしを失ったことに対する慰謝料などを求めているほか、放射線量を事故の前の状態に戻すことも求めていて、裁判所の判断が注目されます。(略)争点1 津波予測し被害防げたか
裁判では、国と東京電力が大規模な津波を事前に予測し、被害を防ぐことができたかどうかが争点の一つとなりました。(略)争点2 「ふるさと喪失慰謝料」認められるか
裁判では、避難生活に伴う慰謝料とは別に、ふるさとでの生活が失われたことに対する「ふるさと喪失慰謝料」が認められるかどうかが争点の一つとなりました。
原告側は、原発事故によって、一人一人の人格を育んできた自然環境や文化環境の中での暮らしや、地域の人と人とのつながりなどが失われ、生涯にわたって続く精神的な苦痛を受けたと主張しています。
そのうえで避難生活に伴う慰謝料とは別に「ふるさと喪失慰謝料」として原告1人につき2000万円を求めています。