■ひと 中村敦夫さん(77)
「死ねと言われたら死ぬ。そんな日本人にはなりたくねえんだよ」。福島弁での語りに客席から「そうだ」と声が飛ぶ。福島県いわき市での公演の観客には原発事故の被災者も多かったという。元原発技師の独白を演じる朗読劇「線量計が鳴る」で全国行脚中。8月末までに11公演をこなした。
きっかけは2011年3月の原発事故。「戦争に匹敵する困難。表現者として何をすべきか考えた」。福島やチェルノブイリの被害者や避難者を訪れ、取材を重ねた。通常ひと月もあれば書けるという台本に3年を費やした。
「人災」の責任を明らかにし、原発は要らないと訴える。スクリーンにグラフを映し、「日本の電力はいつも原発の分だけ余ってるだよ」。感情に訴えるより問題の構図を理解してもらうことに主眼を置く。「原発立地の浜通りの自治体は、どこも同じように繁栄した。予算をばらまくための法律、電源三法のおかげだね」
ニュースキャスターや参院議員の時代から危険性を訴えてきた。劇では「政治家」「御用学者」など既得権益に群がる六つの勢力を「六角マフィア」と表現。「道徳的に崩壊している」と断じる。
少年期をいわき市で過ごした。失われた農作物や自然の大切さに改めて気づいた。「今回ほど確信を持つのは初めて。ライフワークだ」。100回公演を目指す。(松沢拓樹)