線量「外部」の16~220倍
日本とロシアなどの放射線被ばく専門家でつくる研究グループによる動物実験で、放射能を持ったマンガンを体内に取り込んで内部被ばくしたラットの内臓に、一定の時間がたっても異常が見られたことが分かった。原爆投下後の爆心地周辺では、人々が粉じんと一緒に放射能を持ったマンガンを吸い込んだ可能性が高い。国は原爆による内部被ばくの影響に否定的だが、研究グループは「健康被害の潜在的リスクを示唆する」としている。
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爆心地周辺では爆風で破壊された家屋などが粉じんとなって巻き上げられた。当時の家屋には土壁が多く使われていたが、土は二酸化マンガンを多く含み、マンガンは原爆がさく裂して中性子が当たると放射能を持つ。こうして放射性物質となった粉じんを人々が吸い込んだ結果、内部被ばくしたと考えた研究グループは、ラットを入れた装置(空間)に放射能を持たせたマンガンの粉じんを充満させ、影響を調べた。
その結果、1時間装置に入れたラットが、体外から浴びた放射線量が約6ミリシーベルトだったのに対し、粉じんを吸い込んだりしたことによる肺の被ばく線量はその約16倍、小腸は約220倍に達した。肺には出血や気腫が見られたほか、小腸の細胞が異常に増殖した。細胞増殖は60日たっても顕著だった。
内部被ばくによる影響を調べる研究では、広島大の大滝慈(めぐ)名誉教授(統計学)らが昨年2月、原爆投下直後に救護のため広島市内に入った元少年兵を対象にアンケートしたところ、粉じんを浴びたグループの急性症状の発症頻度が、浴びていないグループの10倍以上だったことが分かっている。今回の動物実験も内部被ばくの影響を示唆しており、実験結果をまとめた論文は今年2月、ドイツの放射線医科学誌(電子版)に掲載された。
研究グループの一人、長崎大原爆後障害医療研究所の七條和子助教(病理学)は「放射性物質を取り込んだことの影響は日がたってもみられた。がん発症との因果関係を証明するにはさらに研究が必要だが、貴重な実験結果だ」と話した。【加藤小夜】
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