老朽原発の延命策はリスク発生率を高める不適切対応だ/千葉商科大学名誉教授三橋規宏 via 起業家倶楽部

(抜粋)

ただし規制委員会が新基準を満たすと認めた場合は最長20年間伸ばせる。この規定は受給が逼迫して停電に陥る恐れなどの対応策として盛り込まれた ものであくまで緊急時対策である。規制法改正時の野田佳彦首相(民主党出身)は、同規定を「例外的な場合に限られる」と指摘、規制委の田中俊一委員長も 「延長は相当困難だ」と語っていた。

その時から5年近くが経過した今、この規定はいとも簡単に踏みにじられようとしている。現状の日本では電力の安定供給は十分に確保されており、停電の恐れを心配するような状況ではない。とても例外規定には当てはまらない

それにもかかわらず、「40年原則」が簡単に骨抜きにされ、40年を超える老朽原発の再稼働に道が開かれようとしている。

政府、温暖化対策の切り札に位置づけ

いくつかの理由が考えられる。第1は政府が2030年度の日本の温室効果ガス(GHG)の排出量削減目標として「13年度比26%減」を 世界に公約していることだ。この目標達成のために電源構成に占める原子力の比率を20〜22%を確保することが必要だ。運転40年ルールを厳密に守るな ら、国内44基のうち、30年に運転期間が40年を超えてしまうのが25基、35年を超え老朽原発も8基ある。30年度に約2割を原発で賄うためには 「40年ルール」を遵守していては達成できない。40年を超える老朽原発を少なく見積もっても10基程度運転させなければならない。

第2は電力会社側の事情がある。原発の安全運転のためには、安全性に配慮された最先端の技術を動員した原発の新設が望ましい。しかし深刻な原発事 故後、国民の間には原発の新設には「ノー」の姿勢が強く、用地の取得は事実上不可能に近い。そればかりではない。原発新設のコストは上昇の一途をたどって おり、電力会社にとっては採算がとれなくなっている。

米国では原発新設コストが上昇の一途をたどっており、ビジネスとして割が合わなくなってきたため、新設の動きはストップしている。

その点、老朽原発の延命のためのコストは十分採算がとれる。たとえば高浜原発の場合、原子炉を覆う格納容器の補強や電源ケーブルの火災対策の強化などが対策の柱であり、新設と比べたコストは比較にならないほど少なくて済む。

老朽原発の延命は、政府と電力会社の利害が見事に一致したことで、実現したと判断してよいだろう。

(略)

例外規定である「40年ルール」を延長するためには、稼働年限が40年に近づくにつれ、様々なトラブルが発生している原発の現状を日本だけではな く、広く欧米の事例を集め、国民に開示すべきである。その上で20年延長に伴うリスクの拡大、それに伴う安全対策などを国民に示し、延長の是非を仰ぐため の手続きが必要だ。

さらに長期的視野に立てば、原発の延命を避け、不足電力を太陽光や風力などの再生可能エネルギーで置き換える道もある。その可能性についても十分 な検討が必要だ。「さしあたって都合が良いから」といった安易、かつ短絡的な発想で、「例外規定」を骨抜きにしてしまう手法は、リスクを将来に先送りし、 リスク発生率を高め、立地周辺住民の不安心理を増幅させるだけではなく、日本の将来を損ねる愚策と言わざるをえない。

全文は老朽原発の延命策はリスク発生率を高める不適切対応だ/千葉商科大学名誉教授三橋規宏 

This entry was posted in *日本語 and tagged , , , . Bookmark the permalink.

Leave a Reply