東京電力福島第1原発1~4号機の周囲の土を凍らせて壁を築き、地下水の流出入を遮断する「凍土遮水壁(凍土壁)」について、原子力規制委員会は週内にも、全面凍結を認可する。当初は汚染水抑制の「切り札」とされ、世界でも類のない対策がようやく完成するが、国費345億円がつぎ込まれながら遮水効果ははっきりしない。浄化後の処理水の行方もめどが立たず、事故から6年半近くが経過してもなお、汚染水問題が廃炉作業に立ちふさがる。【柳楽未来、岡田英】
[…]凍土壁の建設は2013年5月、外部有識者による政府の「汚染水処理対策委員会」が複数の大手ゼネコンから提案された案の中から選び、東電に指示した。その年の秋には、20年東京五輪招致のヤマ場が控えており、国が前面に出て汚染水対策に当たっていることを国際的にアピールする狙いがあった。
民間企業の事故の後処理に税金をつぎ込めば国民の反発を招きかねないが、対策委関係者は「過去に例のないチャレンジング(挑戦的)な凍土壁なら国費を出せるという実情があった」と明かす。凍土壁は小規模な実用例はあるが、1・5キロにも及ぶ規模や年単位の長期の維持は例がなかった。
当時、政府・東電は、粘土で壁を造るなどの方法に比べ、凍土壁は建設にかかる時間が短く、不都合が起こった場合、解かせば元に戻せるなどのメリットがあると説明した。しかし、規制委は凍土壁によって地下水がせき止められて原子炉建屋周辺の地下水位が下がれば、建屋内の汚染水が逆流して漏れ出すことを懸念。効果や影響を見ながら段階的に凍結していく方針を取ったため、当初15年度内としていた完成予定は大幅に遅れた。
さらに遮水効果についても、計画を認可する規制委の審査で有識者から懐疑的な意見が相次いだ。今回認可されるのも、「遮水効果を上げていないから(地下水位が下がって汚染水が逆流することはなく)安心して凍結を進められる」(更田(ふけた)豊志・規制委員長代理)という皮肉な理由からだ。
凍土壁は年間に十数億円の維持費がかかる上、維持管理に携わる作業員の被ばく量も多い。原子炉建屋の地下の損傷部をすべて修復するめどはたっていない。浅岡顕・名古屋大名誉教授(地盤力学)は「このままでは効果の薄い凍土壁をずっと維持しないといけなくなる。別の種類の壁を検討すべきだ」と指摘する。
処理水80万トン、行き場なく
汚染水問題では、浄化後の処理水の扱いも東電を悩ませている。
汚染水は62種類の放射性物質を除去できる「多核種除去設備」で処理するが、トリチウムだけは原理的に除去できない。トリチウムは宇宙線によって自然界でも生み出されているほか、世界各地の原子力施設からも海に放出されている。規制委は「安全上問題ない」として処理水を海洋放出すべきだとの立場だが、風評被害を懸念する地元漁業関係者を中心に反対が根強い。東電は第1原発敷地内にタンクを次々と建設して処理水をため続けており、その量は80万トンに迫る。
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よくあることだが、トリチウムの軽視が気になる。