開沼博の正体(前編)──原発事故被害を「漂白」する伝道師(明石昇二郎)via 週刊金曜日

良識ありげにデタラメを言う人が、なぜこれほど“評価”されるのだろうか。福島をめぐる見解、とくに安全性にかんする言説には両極端があり、被災者を悩ませている。だからこそ、私たちは「事実」を重視すべきだ。デマの垂れ流しを放置してはならない。

[…]

「『即座に原発をなくせ』ということが、ただでさえ生活が苦しい原発立地地域の人間にとっては仕事を奪われることになる。それがどれだけウザいか。『奇形児を作らせるな』と障がいがある方もデモに参加している中で叫ぶ。新たな抑圧が生まれかねない状況がある以上、手放しでは見過ごせません」

社会学者・開沼博氏が「日刊サイゾー」に寄せたコメントである(http://news.livedoor.com/article/detail/5769413/)。彼が批判したのは、今から6年前の2011年4月10日、東京・杉並区高円寺でおよそ1万5000人が参加して行なわれた「原発やめろデモ!!!!!」のことだ。

 

 

[…]

しかし、開沼氏は「高円寺デモ」当日、取材で新潟県を訪れていたのだという。当の『「フクシマ」論』に、そう書かれていた。

恐れ入ったことに開沼氏は、高円寺に来ないで「高円寺デモ」を批判していたのである。その上で開沼氏は、見ていないデモを「ウザい」「見過ごせません」などと罵倒していた。

ルポというより「エッセイ」

1984年生まれの開沼氏の出生地は、福島県いわき市。自身のオフィシャルサイトによれば、現在の肩書は立命館大学准教授である。

氏の著書『漂白される社会』(ダイヤモンド社)は、著者によれば「ルポルタージュ」(ルポ。現地報告)でもあるのだという。

『Voice』13年5月号で開沼氏本人が語っていたのだが、彼には実話誌『実話ナックルズ』でライターをしていた経歴がある。その頃に取材したネタを「社会学風」(本人談)に書き換え、ウェブサイト「ダイヤモンド・オンライン」で連載したルポを一冊にまとめたものだ。

同書のタイトルにもなっている「漂白」とは、開沼氏の定義によれば「これまで社会にあった『色』(偏りや猥雑さ)が失われていく」ことなのだという。そしてそれらは、治安上「あってはならぬもの」と警察が考えているものらしい。その具体例として同書で挙げられているのが、「売春」「生活保護の不正受給」「女衒」「賭博」「脱法ドラッグ」「過激派」「偽装結婚」などである。

東海地方の観光地を訪ねた「売春島ルポ」では、客引きのおばあさんを取材してはいるものの、売春行為の当事者である売春婦や客は登場しない。

そして、その観光地のそばには、かつて原発の立地計画があったと、唐突に語られる。そこでの売春の歴史と原発計画の間には何ら関連性がないのだが、参考文献を読み漁って書いた「解説」が、現地ルポより長く感じられるほど延々と続く。

開沼氏はこうした文章を「ルポルタージュ」と呼んでいるが、その実態は「エッセイ」(随筆)に近い。言うまでもなくエッセイは、本から得た知識や自身の体験や見聞をもとに、それに対する感想や印象、思想を書き記した文章のことである。

「過激派ルポ」での創作疑惑

開沼「ルポ」の最大の弱点は、作文を書く上での大原則「5W1H」(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)がハッキリ書かれていないことだ。そのため、追試や検証ができない。これは、ルポのリアリティや説得力にも関わってくることだ。

「調査対象者を傷つけない」ことを理由に、意図的に省略しているのだと開沼氏は説明する。だが、その理由では説明がつかない“5W1Hの省略”も彼の「ルポ」には存在する。

[…]

 

開沼氏は「脱原発」を唱える人々が嫌いである。そして、福島県民の健康問題を指摘する声にも、開沼氏は“鉄槌”を加える。

「甲状腺がんの問題もよく話題になりますが、『福島で甲状腺がんが多発している』と論文にしている専門家は、岡山大学の津田敏秀さん以外に目立つ人はいない。その論文も出た瞬間、専門家コミュニティーからフルボッコで瞬殺されています」

16年4月21日付「WEDGE REPORT」における開沼氏の発言だ(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6618?page=1)。科学者のコメントとは思えないほど意味不明だが、悪意だけはしっかりと伝わってくる。

原因はさておき、福島第一原発事故以降、福島県内で甲状腺がんが多発しているのは事実である。それは小児ばかりか、大人でも言えることだ。国の「全国がん登録」データを検証したところ、同原発事故以降、福島県で大人の甲状腺がんが増加していることが確認されたため、本誌16年7月22日号でその事実を明石が報告した。その記事では、疫学と因果推論などが専門の津田敏秀・岡山大学大学院教授のコメントも紹介している。

論文には論文で対抗するのが科学界のルールだ。津田論文が「フルボッコで瞬殺」されたかどうかは、当の論文が掲載された医学雑誌上での議論の結果、判断される。だが、津田論文が「瞬殺」された事実はなく、同論文は取り下げられてもいない。開沼氏が言うような「専門家コミュニティー」が審判役を務めるわけでもない。そしてこのことを、科学者である開沼氏が知らないはずがない。

全文は 開沼博の正体(前編)──原発事故被害を「漂白」する伝道師(明石昇二郎)

 

This entry was posted in *日本語 and tagged , . Bookmark the permalink.

Leave a Reply