武藤さんは15年ほど前、約20年続けていた特別支援学校の教師を辞め、祖父から譲り受けた三春町の山を開墾。木造りの家を建て、そこで喫茶「燦(きらら)」を営みながら、自然と共生する暮らしをしてきた。ソーラーパネルを取り付け、一軒で使用する電気の半分は自給。木の実や山菜、ハチミツなどを採って食べ、井戸水を飲み、まきで火をおこし、自然の恵みを存分に享受する生活−−。
「でも、それらすべて放射能によって汚されてしまったんです。植物も虫も獣も、大地もすべてです」
そう話す武藤さん。原発事故後も25歳年下のパートナー佐藤真弥さん(37)と、愛犬のみちこと共に、この家に住んでいる。が、原発事故前のような自然の恵みを享受する暮らしは、もうできない。燦は、「どんぐりカレー」が売りだったが、どんぐりから放射能性セシウムが検出されたため、それも提供できなくなり店じまいした。
「『福島原発告訴団の団長、なんて言うと、どんなすごい闘士かと思っていたけど、普通のおばさんですね』なんて、よく言われるのよ」(武藤さん)
福島原発告訴団とは、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、被害を受けた住民1万4,716人で構成されている史上最大規模の告訴団。津波対策などを怠り、過酷事故に至らしめた東電や国の刑事責任を問うため、福島県内で30年近く脱原発活動を続けてきた「脱原発福島ネットワーク」が中心となり、全国から告訴人を募って、’12年3月「福島原発告訴団」を結成した。告訴人は、北海道から沖縄まで全国にいる。
告訴団の団長として日本全国を飛び回り、各地で頻繁に講演をしている武藤さんだが、人前で話すのは本当に苦手で、今でも自信がないという。
だが、「武藤さんには、多くの人をひきつける天性の魅力がある」と話すのは、武藤さんを告訴団の団長に推薦した、前いわき市議の佐藤和良さんだ。
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