「福島のエートス」が中心となったダイアログセミナー「私たちの未来のために、私たちに必要なこと~ICRPの協力による対話の継続」が8日、福島県伊達市役所で開かれた。福島市や伊達市、飯舘村や川俣町山木屋、田村市の住民たちがそれぞれの想いを発表したが、どれも「前向き」なものばかり。被曝リスクが語られる事はほとんど無かった。ダイアログセミナーは9日も17時過ぎまで伊達市役所で開催される。入場自由。同時通訳あり。次回は11月25、26の両日、川俣町山木屋で開催される予定。
【「楽しい方に進めば良い」】
会場を提供した伊達市の仁志田昇司市長のあいさつがそもそも、被曝リスクや避難の合理性を認めていなかった。
「私たちも、全体から見れば軽い方ですけれども放射能の被害がありまして、一部避難というのもあったわけですけれども、今は相当程度落ち着いております。けれどもまだ、いろんな問題を抱えているというのが実態であります。ICRP(国際放射線防護委員会)のダイアログは17回だそうですが、そのうち7回を伊達市で開催していただきまして大変光栄に思っております」
仁志田市長の言う「問題」とは点在する被曝リスクからどう市民を守るか、ではなく、一部の市民の〝誤解〟や世間の〝風評〟をどのように払拭するか、だ。実際、2013年から発行されている「だて復興・再生ニュース」の中で、仁志田市長は「年間1ミリシーベルト=0.23μSv/hの呪縛」、「原発事故によって、放射能に対する関心が高まったことは悪いことではないのですが、過剰な拒否反応は良いことではありません」、「消費者の信頼を回復するためには、我々自身が『福島県産以外のものを…』などということがあってはならず、まず、我々自身が『地産地消』を意識するべき」、「当市でも未だ自主避難が解消されていないこともあることを考えると、風評被害の完全な払拭はなかなか難しいことであるとつくづく思わされます」、「今、必要なのは『心の除染』」などと綴って来た。
その仁志田市長が歓迎する「ダイアログ」だから、参加者からは、何度も「前向き」という言葉が発せられた。
「(原発事故の)被害者で居続けたい人は誰の事も幸せにしない」
「ストレスを抱えないように、楽しい事を考えて楽しい方に進めば良いのではないかと考えたら、体調も良くなった」
「前向きな事をやっていれば絶対に大丈夫だ、という想いが根底にある」
汚染や被曝リスクがほとんど語られない〝対話〟。これでは、被曝リスクへの懸念を堂々と口に出来るはずが無い。〝自主避難〟など到底、理解されない。[…]
【「被曝への不安、否定しない」】
原発事故による被ばくリスクがほとんど語られない中で、ダイアログに飛び入り参加した「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」共同代表の小澤洋一さん(南相馬市)は、「私だけが後ろ向きなのかな」と苦笑した。
小澤さんは土壌測定の重要性を提起。「食品検査で『不検出』だったからといって決して『安全』ではない」とした上で「取り込んだ放射性微粒子は血液とともに体内を巡る事を分かって欲しい」、「地表面の放射線量は、高さ1メートルのそれより2倍高い」などと語った。
また、福島市のNPO法人「ビーンズふくしま」の富田愛さん(「みんなの家@ふくしま」事業長)は「福島県外に避難している母親、避難先から戻って来た母親、避難しなかった母親、それぞれの選択を大切に尊重して認め合い、ゆるやかにつながれる居場所をつくりたい。福島で子育てをしているママを支えたい。まずはママたちが笑顔を取り戻し、自信を持って子育てできる福島にしたい」と語った。「〝自主避難者〟は『勝手に逃げた』『家族をバラバラにした』と言われて傷ついている。ママたちは子どもを守りたいという事だけを思い、たくさん悩み、たくさん傷ついて自己選択を繰り返してきた」と涙をこらえる場面も。
全ての選択を尊重する、という観点から、「みんなの家@ふくしま」は昨年から畑を借りて農業にも取り組んでいるという。「来週、ジャガイモを使ったカフェを開催する予定。土壌や作物をしっかりと測って数値を全て公表します。畑作業に参加するしない、食べる食べないはそれぞれの判断。それは尊重します」。
全国で問題となった「避難者いじめ」に関して、富田さんは全国での放射能教育の必要性を訴えた。今年3月末での〝自主避難者〟向け住宅の無償提供打ち切りに際して、福島県知事へ打ち切り撤回を要請する事は無かったという。
ダイアログセミナーは、ICRP(国際放射線防護委員会)や福島県立医科大学、伊達市が参加する実行委員会の主催で、日本財団が資金面でバックアップしている。この日はフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)やフランス原子力防護評価センター(CEPN)などの関係者も多く参加した。福島民報・浜通り創生局長の早川正也さんも参加した。
実行委の中心メンバーである「福島のエートス」代表の安東量子さんは休憩時間に取材に応じ、「私たちは決して、被曝リスクを心配する人々を否定しません。全体が前に進む中で、ともすれば置いてきぼりになってしまう人々をケアする人が誰もいません。例えば〝自主避難者〟がそうです。早い段階で国も行政も避難の権利を公的に認めるべきだったのです」と語った。