日本には原発を動かす条件も環境も整っていない。そう考えざるを得ない。
政府は原発事故に備えた原子力損害賠償法に基づく賠償金を現行の1200億円に据え置く方針を決めた。
東京電力福島第1原発の事故の賠償金は、今年7月時点で8兆円を超えている。同法で定めた民間保険や政府補償による賠償上限を引き上げる必要性は以前から指摘されていた。
政府の専門委員会は当然、引き上げで同意する方向だった。しかし、電力会社と政府の双方が引き上げに後ろ向きで、結果的に見送りとなった。
万が一への備えが不十分なまま、原発の再稼働が進んでいくことになる。「原発のコスト」などの著書で知られる龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「無保険で車を運転しているような状態」と指摘する。
原賠法は、民間保険と政府補償契約で賠償額を充当する仕組みで、賠償額の増額は電力会社の負担になる。
電力会社は電気代値上げにつながるとして難色を示し、賠償額を増やすなら国が手当てしてほしいと要求した。電力自由化で競争が激化しているうえ、原発再稼働のための安全対策に費用がかかっているためという。
原発の運転にお金がかかるから、万が一の事故に備えた賠償金を十分用意できない、というわけだ。それなら原発から撤退すればよい。税金をあてにするなど、論外ではないか。
国も世論の反発を恐れ、財政出動による政府補償の増額を拒んだ。
電力会社が十分な補償を用意して原発を運転しているかどうかを監督するのが、本来の国の役割ではないのか。「再稼働ありき」だから電力会社の言い分を聞くしかない、というなら極めて無責任である。
「原発は比較的安価なエネルギー」。国と電力会社はこう繰り返しているが、万が一の事故に十分に備えれば、割が合わないのは明らかだ。
今月10日、中国電力が建設中の島根原発3号機の新規稼働に向けて原子力委員会に審査を申請した。
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