[…]県民は憲法前文にある平和的生存権を侵されていないだろうか。
避難者は現在も県内外に約9万4千人いる。多くの家族が引き裂かれ、大切な時間を奪われた。放射線にまつわる根拠のない社会的差別もある。憲法13条にある幸福追求権が軽んじられている。
仮設住宅には3月末でまだ1万7804人が暮らしている。自殺も含め、避難生活の長期化などで体調を崩し亡くなる震災(原発事故)関連死は増え続けている。25条にある「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」は満たされているだろうか。
避難区域の住民にとって22条にある居住、移転の自由は奪われたままだ。たとえ避難指示が解除されても、住民の帰還の判断に周囲がとやかく言えるはずがない。
東電が支払う賠償金が、29条で規定される財産権を満たしているとはとても思えない。国策として原子力行政を進めた国に対し、17条にある国家賠償責任は輪郭さえ見えない。
時代の進展とともに社会は憲法の精神の実現に努力すべきなのに、原子力災害に対応できていない。県民は憲法に基づくこうした権利をもっと強く主張して良いはずだ。
連合国軍総司令部による新憲法作りには、民間の研究者らによる憲法研究会がまとめた憲法草案要綱が大きな影響を与えたとされる。研究会の中心人物が現在の南相馬市小高区に生まれた憲法学者鈴木安蔵だった。
のちの原発被災地の出身者の思想や軌跡を学ぶことも、現憲法の柱である基本的人権の重要性を再確認する機会となるだろう。(佐久間 順)
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