10日の東京電力福島第1原発事故による被害者訴訟の判決について、原告弁護団は「誰もが原告になり、被害救済を受けられる可能性が開けた」と評価する。判決が示した賠償範囲に居住していた人は福島県内だけでも150万人超。裁判は控訴審に移る公算が大きいが、判断が維持されれば現行の賠償制度に与える影響は極めて大きい。
文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は、東京電力の賠償基準を「中間指針」で定め、避難指示区域や自主避難区域などの賠償の区割りは2011年末ごろまでに大枠が固まった。賠償額は避難指示区域では850万円以上だが、同区域周辺の自主避難区域では原則総額8万円。さらに原発から離れた福島県会津地方や茨城県などは賠償が認められず、格差があつれきを生んだり、各地で避難者らが提訴したりした原因にもなっている。
このため、福島の原告団は「被ばくへの不安は共通している」と主張し、原告それぞれの個別賠償でなく、避難区域の内外に関わらず、居住地の空間放射線量が事故前の水準(毎時0.04マイクロシーベルト以下)に戻るまで月5万円を支払うよう求めた。
さらに、原告の住む地域を複数に分類し、それぞれの原告代表計35人が被害を立証した。空港や基地の騒音訴訟など、ごく一部でしか例がない手法だが、採用した背景には、個別の救済を超えて賠償制度を「面的」に見直させる足がかりにしたいとの狙いがある。
判決は「中間指針は目安であり、これを超える損害の認定は当然に許容される」と指摘し、制度の見直しに一石を投じた。原告弁護団幹事長の南雲芳夫弁護士は「賠償が認められた2900人の背後には全ての被害者がいる」と話し、賠償基準の見直しにつながることを期待する。
だが、判決が認めた賠償額そのものは低く、原告側の渡辺純弁護士は「全ての被害実態を正しく反映していない。さらに上積みを拡大するために闘う」と控訴審を見据えた。【土江洋範、伊藤直孝】