古賀茂明「『放射性物質を海に流す』安倍政権の方針は7年前から決まっていた」via Aera.dot

8月30日と31日、「トリチウム」という放射性物質を含む水の処分をめぐり、国の有識者会議は初めての公聴会を福島県富岡町、郡山市と東京都で開催した。トリチウムは、水の一部として存在しているため、他の放射性物質とは異なり、現在の放射性物質除去システムでは取り除くことが難しく、処理された水の中に残されてしまう。そのため、最終的にこのトリチウムを含む水をどう処分するかということが、何年も前から課題とされていた。

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実は、この方針は、事故直後から経済産業省の中では既定方針だったと見られる。専門家の間では、2011年4月頃から、汚染水の大量漏出の危険性が指摘されていた。10万トン級のタンカーを原発近くに停泊させてそこに高濃度の汚染水を貯留するというアイデアまで提案されていたくらいだ。それくらい緊急性があると考えられていたことになる。

私が最も信頼する原子力発電専門家である佐藤暁氏は、亡くなった吉田昌郎元福島第一原発所長に事故直後からいろいろと相談を受けていたそうだが、その中でも、吉田氏は汚染された冷却水の処理方法がないことを心配し、水冷式以外の方法を一緒に考えて欲しいと依頼していたそうだ。

つまり、原発専門家にとっては、汚染水処理問題は最優先だとすぐにわかる課題だったのだ。

一方、事故直後に経産省が最優先にしたのは、「東電を破たんさせない」ということだった。このため、全ての対策は、東電が破たんしない範囲でのコスト負担を上限とするという被災者無視の不文律が支配することとなった。

それが最も端的に表れたのが、汚染水対策だ。原子炉に注入される冷却水は高濃度汚染水となる。さらに、これに地下水が流入し、大量の汚染水が毎日数百トン単位で発生する。そこで、汚染水から放射性物質を除去するシステムが導入されるとともに、流れ込む地下水を遮断して、少しでも海に流れ出る汚染水の量を減らす対策が急務となった。

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初めて実施する大規模な凍土壁の建設だから、リスクが大きすぎて民間企業(東電)にやらせるのは無理だという理由で、国が資金を出すことになった。もちろん、国民の税金である。これがコンクリート壁だと、普通の工事だから、東電が出せとなるということになり、東電の財務に負担がかかるという事情があったのだ。しかし、当初からこの凍土壁では大きな効果が見込めないというのが大方の予想であった。

それでもこの方法にこだわったのは、東電の財務事情の他にもう一つ理由があった。それは、放射性物質は、どうせ海に流すしかないという経産省の確信犯的意思があったということである。なるべく金を出さずに、静かに海に流せばいい。海は大きい。薄まればどうということはない。そう考えたのである。その後、経産省の考え方に沿って、大量の汚染水が垂れ流されることになった。

この考え方は、2012年にできた原子力規制委員会にも引き継がれる。規制委の本来の業務は、まず、福島第一原発の事故後の処理であるはずだった。原発の安全を確保し、国民の生命健康を守るという使命から言えば、汚染水垂れ流しという深刻な安全・環境問題の処理を最優先にすべきであるのにもかかわらず、規制委は、この問題に目をつぶり、原発再稼働のための基準作りだけに猛進するのである。これは、当時の民主党野田内閣の方針でもあった。

そして、汚染水の問題が再び脚光を浴びたのは、13年夏になってからだった。大量の汚染された地下水が垂れ流しになっていたという事実が(専門家のほとんどはそうであることはわかっていたが)7月22日に東電によって正式に発表されたのだ。それまでも汚染水タンクからの漏出や取水口付近の放射能汚染などの「事象」はたびたび報じられていたが、地下水が漏れ出ているのを正式に認めたのは初めてだった。

後に判明したのだが、実は、この事実は、東電上層部はもっと早い段階で知っていたが、発表を当日まで延期した。その理由は、前日の7月21日が参議院選挙の投票日だったからだ。もちろん、安倍政権への「忖度」あるいは、政権からの指示があったことは明白である。

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ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で東京オリンピック・パラリンピック開催が決まったのは、この汚染水騒動が少し収まった13年9月7日だ。当然のことながら、IOCでは、東京の放射能汚染を懸念する声が上がった。

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福島では、事故後長期にわたり操業が停止されていたが、その後は徐々に操業が認められ、試験操業とはいえ、厳格な検査を経て、現在では一部の魚種では築地にまで出荷されるに至っている。その努力が一瞬にして水泡に帰し、また一からやり直しだと考えれば、理解を得るのはほとんど無理だと考えるべきだろう。

もちろん、そんなことは経産省も規制委もよくわかっている。ここから先は、いつもの作戦を展開することはもう決めているはずだ。

すなわち、当分は、ただ、ひたすら話を聞くふりをする。一方で、「風評被害対策」という名目で金をバラまく姿勢を見せ、もらえるならまあ仕方ないという漁業者を一人二人と増やして行く。そのうえで、どこかで有無を言わさず、「海洋放出」を「決定」し、あとは、何を言われようが絶対にそれを動かすことはない。

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福島県の内堀雅雄知事は8月20日の定例記者会見で「国や東電に対しては環境や風評への影響などについて、しっかりと議論を進めて丁寧に説明し、慎重に対応していくことを求めたい」と語ったそうだ。官僚経験者の私に通訳しろと言われれば、「海洋放出反対とは言ってませんよ。『風評への影響』対策で、地元を黙らせるくらい十分なお金をはずんでくださいね」という意味になる。

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