1.区域外避難者の訴え | 被害は避難指示区域の線で止まりません (上)(2回の連載) | 学校に呼び戻された子ども達に真っ先に課せられたのは | 汚染した教室の除染でした | 10/17福島原発被害東京訴訟(第1陣)控訴審での意見陳述 └──── 鴨下祐也 (福島原発被害東京訴訟原告) 始めに、この法廷で、意見陳述の機会を頂いたことに、深く感謝 申し上げます。 私は、福島第一原発事故以前は、妻と、当時8才と3才だった二人の 息子と共に、福島県いわき市の自宅で、高等専門学校の准教授として 働きながら、のどかに暮らしていました。 しかし、東日本大震災の直後、原発事故の危険性を感じ、避難を 決めました。激しい余震が続く中、ろうそくの明かりで荷造りをし、 夜明けを待って車を出しました。 幼い息子たちは、3つしか持たせてやれなかったおもちゃを 抱きしめて生まれ育った家を離れ、以来、8年7か月を経過した今も、 東京で避難生活を続けています。 2011年4月、勤め先の業務が再開されたため、私は避難中の妻、子を 東京に残し、福島に戻りました。 当時、市の発表では「いわき市は被曝していない」ことになって いました。 「放射能は笑っていれば来ない。心配する者が病気になる」という 不可解なメールが拡散され、ラジオは「この街の復興を妨げているのは 放射能を怖がる心です。」と連呼していました。 そして、2011年4月の初め、いわき市内の小中学校が一斉に再開 されることになりました。学校からは、「子ども達に教育を受けさせる 義務を放棄してはならない」と、連絡が入り、多くの子どもとその家族 が、まだ線量の高かったいわきへ呼び戻されました。 私は線量計の測定値を元に、多くの放射性物質が、土ぼこりと共に、 校舎の内外に降り積もっていることを突き止めました。 私は、この大量の放射性物質を、久しぶりに登校した子どもたちが 大掃除をして吸い込んでしまうことを避けるため、せめて大人たちで これを除去できないかと、小中学校や教育委員会へ赴き、使い捨ての モップや雑巾で床や机を拭くだけで、子ども達が放射性物質を肺に 吸い込む危険を大幅に軽減できることを伝えました。 しかしその努力も空しく、実際に除染を実践してくれたのは、息子が 通っていた小学校だけでした。こうして放射性ヨウ素を含む最も危険な 最初の除染は、被曝を避けるすべを持たない小中学生の手により、 掃き掃除として行われてしまいました。とても無念でした。 私は、原発事故の9年程前から、屋上でおいしい野菜を水耕栽培する研 究をしていました。2011年5月、不安はありましたが、学生達の熱意に 動かされ、校舎の屋上での実験を再開しました。念入りに除染した プラントと清浄な水。 しかし収穫した野菜は汚染しており、私は、いわきでの研究を断念 しました。共に研究してきた学生達にも、辛く、悔しい思いをさせて しまいました。これが、「汚染されていない」と宣伝されていた いわきの現状でした。 原発事故後の福島には、避難区域の外であっても、放射線管理区域に 相当する線量の場所がたくさんあります。 放射線管理区域といえば、大学の研究室であれば、専用の白衣、 被曝量を測るバッジを身につけ、実験機材を洗った排水も専用のタンク に保管し、放射線量が下がるまで下水などには流せない。然るべき安全 管理のもとで慎重に業務を行うべき場所です。 ところが、原発事故後の福島では、そこで人々が生活しており、 食事も育児もしています。1平方メートル当たり数万ベクレルを超える 土の上で、子どもたちが泥だらけになってスポーツをし、草むしりを するというのは、本来あるはずのない状況です。 実際、学生たちに渡された線量計の数値は、屋外で部活動を行う学生 が明らかに高い数値を示していました。 私は、実測値や文科省が公表しているデータを元に、危険を軽減する 方法を提案してきました。 しかし、その行動自体が誹謗中傷の対象となっていきました。 この様に、厳重に管理されるべき放射性物質が、風に乗り、雨と なって降り注ぎ、その汚染された地に沢山の人々が取り残されました。 水も空気も食べ物も土も酷く汚染しているのだから、被曝から身を 護るために、やむなく住み慣れた地を離れた私たちを、国は勝手に 「区域内避難者」と「区域外避難者」、いわゆる「自主避難者」に 線引きしました。 今も被曝回避のために避難を続けている点では、私たち「区域外 避難者」は何ら「区域内の避難者」と区別される理由はありません。 職場では、震災後、業務の負担が増え、連日深夜まで勤務が続き ました。 そんな中でも、私はなんとか休みを捻出しては、家族に会いに夜の 高速道路を飛ばしました。深夜の常磐道は、私と同じように家族の元へ 向かう父親達の車が、何台もふらふらと走っていました。誰もが、 妻子に会いたい一心で、疲れた体にムチ打って車を走らせていたのだと 思います。 私も無理が祟ったのか、避難所から福島に帰る途中で、事故を 起こしたことがありました。深夜の首都高速で、路面のオイルに 気づかずスリップし、横転しました。幸い、命に関わる怪我はあり ませんでしたが、乗っていた軽自動車は廃車になるほど激しい事故で、 24年前に免許を取って以来、これが初めての事故となりました。 こういう経験をしたこともあり、同じく二重生活を送っていた妻の 友人が、類似した状況で他界したことを知った時は、本当にひとごと ではなく、言葉がありませんでした。 (下)に続く
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