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存在が許されない声なき命を守りたい 被ばくした牛を育て続ける畜産農家の姿を追った渾身のドキュメンタリー via Rooftop

2011年の福島第一原発事故から1ヶ月後、国は原発から20キロ圏内を「警戒区域」に指定し、住民は強制避難させられ、関係者以外の立ち入りは厳しく制限された。畜産業の盛んな福島にはこの警戒区域内にも多くの牧場があったが、事故当時約3500頭いた牛は牛舎に繋がれたまま残され、その多くが餓死していった。そして翌5月。国は20キロ圏内にいるすべての家畜の殺処分を通達し、生き残った牛もその大半が殺された。

しかし、「大切に育ててきた牛の命を人間の理屈だけで奪うことはできない」という思いから、殺処分に納得せず、膨大な餌代を自己負担しながら牛を生かし続けようと決意した畜産農家が現れた。ある農家は被ばくを覚悟で居住制限区域に暮らし、別の農家は60キロ離れた仮設住宅から帰還困難区域にある牧場へ通い続けた。

彼らはなぜ経済的価値のない牛を生かし続けるのか? 映画『被ばく牛と生きる』は、原発事故で故郷も仕事も奪われた畜産農家たちの静かな闘いの姿を追っている。農家達の立場は様々だが、共通するのは故郷への想いと牛たちへの深い愛情、そしてやり場のない怒りである。約5年余にわたって福島に通い続けてカメラを回した監督の松原保に、この映画に込める想いを語ってもらった。(TEXT:加藤梅造)

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本作には主に8人の畜産農家と1人の大学教授が登場する。反原発を強く訴える吉沢さんと対照的なのが、浪江町の町会議員として原発を推進してきた山本幸男さんだ。事故後、原発の安全神話を信じたことを後悔し、仮設住宅から片道2時間かけて浪江町の牧場に通い続けた。
松原「山本さんは原発を推進していたことを後悔しているんですが、カメラの前ではついに最後まで言ってくれませんでした。でも『牛を生かすことが故郷を守ることにつながる』と被ばく牛を生かし続けるんですが、その信念はすごいなと思います」
 
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原発から10キロ地点にある柴牧場は通常の700倍の放射線量だ。そこで仕事をするというのは文字通り死をも覚悟する行為と言える。なぜ、そこまでして彼らは牛を育てるのか?
松原「牛に対する愛情でしょう。よくある表現を使えば『家族』ってことなんですが、なかなか我々には実感しづらいかもしれません。でも実際に取材しているとわかるんですが、彼らは生業として生き物を育て、その命を売ることで自分達が生かされてきた。そのことに対する牛たちへの感謝の表れなんだと思います。その気持ちがあるからこそ、被ばくしてもう出荷できないからと言って、牛を殺すということはできない。国からの通達だとはいえ、牧場主は殺処分の同意書にサインしないといけない。それだと自分の責任で殺したという負い目になってしまう。国が牛を殺せと言いながら、その責任を農家に負わすという理不尽さに腹が立っているんです。被ばくした牛が社会的に許されない存在だとしたら、法律を改正して国が直接処分して欲しい。でないと牛飼い農家は二度と生き物を飼えなくなるでしょう」
 
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誰よりも牧場を続ける意志が強かった柴さんだが、あろうことか、牧場の隣の空き地が放射能汚染物の仮置き場に指定されてしまった。そして、遂に柴さんはある決断をする。
松原「人間に必要だから生かす。人間に必要ないから殺す。そもそも人間がそんな神のような判断を下していいのか? だからこの映画ではそこを一番のテーマにしたかった。命という観点から見て原発はどうなのか? 反原発を声高に言ってはいませんが、そういうことを感じてもらいたい」
 
 思えば、国はずっと原発事故を過小に扱ってきた。2011年には当時の野田首相がいち早く「事故収束」宣言を出し、2013年には安倍首相がオリンピックを誘致するために事故は「アンダーコントロール」と世界に向けて演説した。しかし、莫大な予算をかけた除染は思ったほどの効果を上げられず、原発からの汚染水はいまだに海に流れ続けている。それにもかかわらず2017年3月、政府は一方的な安全宣言で、自主避難者への支援を強引に打ち切った。
松原「本来、もっと早くに公開したかったんだけど、自分の中で物語の結論を出せなくて、5年近くも取材を続けてしまった。当初はもっと反原発色の強い内容だったのですが、取材を進めるうちに様々な立場の農家に出会い、それぞれに理由があることがわかってきた。一体何が正しいのか? その答えを求めて福島に通い続け、被災者である農家の方々の思いを聞くことで、結果的に反原発を叫ぶ映画ではなく、ひたすら『傾聴する』ドキュメンタリー映画になりました。原発事故から6年目だからこそ、ぜひ多くの人に観て欲しいと思います」

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