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避難先の福島市渡利のアパートに構えた事務所兼自宅には、4年分以上の領収書が束となる。帳簿の記入から決算書の作成まで1人で追われている。同社の決算日は納付期限日より1カ月後の4月30日。経理が終わらない以上、確定申告はできなかった。
会社の収支を確定させなければならない理由がもう1つあった。「賠償金をもらわないと税金を払えない」。所得税や法人税などの納税額が膨らめば、手持ちの資金では心細い。最低限の運転資金は確保しておきたい。すがるところは未請求の賠償金しかなかった。
平成23年7月に東電から損害賠償の仮払い金250万円を受けて以来、本格的な賠償金を請求していない。仕事の現場と避難先を往復する日々で、避難などに要した経費を会社分と個人分に仕分ける作業さえ進まなかったためだ。会社と個人の財物賠償も求めていない
会社の存続を優先するあまり、後回しになった賠償金を、納税のために請求する羽目になるとは思ってもいなかった。営業損害賠償や財物賠償の一部は課税対 象だ。納税するための賠償金で、また納税することになる。「自分の怠慢が招いた悪循環だが、これでは原発事故の損害を埋められない」。西内さんは首をかし げる。(略)
設備投資の借入金は金融機関の口座から自動的に引き落とされる。このままでは破綻すると考えた。避難生活も落ち着かない中で働きだした。同業者から 分けてもらった仕事などで、ほそぼそと経営を続けた。依頼があれば空間放射線量が1時間当たり10マイクロシーベルト超の墓地にも入った。
「原発事故直後に事業を再開したのは正解だったのか、賠償金を受け取って事業再開を断念した方が良かったのか…」。今なお答えは出ない。政府は「生活再建」「事業再開」と避難者を鼓舞する。ただ、原子力災害の損害を埋め合わせるための賠償金で、国に税金を納めざるを得ない現実もある。納税は国民の義務だが、先行きを見通せない避難者には不条理な重荷と映る。課税をめぐる賠償の底流を追う
全文は第3部 課税(19) 納税、賠償金頼み 埋まらぬ損害 悪循環