福島第1原発で命を落とした釣さんの勇姿 - 1F殉国者に黙祷 via TOCANA

(抜粋)

■ISによる日本人拘束事件の前日、釣さんは亡くなった

前回の記事でも 伝えたが、1月19日は、湯川遙菜氏と後藤健二氏の人質動画が公開された日の前日だった。その日の9時6分ごろ、Jタンクエリア用雨水受けタンクN0.2 の内面防水検査を請け負ったゼネコン大手、安藤ハザマの社員釣幸雄さんが、タンク内が暗かったことから天板部から太陽光を入れようとマンホールの蓋を動か したところ、その五十一キロという重量を支えきれず、もろともタンク内へ十メートルの高さを墜落した。

以下、1F内ER(緊急救命室)の所見。左気胸、左四・五・六肋骨骨折、右恥座骨骨折、不安定型骨盤骨折、左大腿部転子部骨折。1F内ERへの搬送時には意識があったという。
■パフォーマンスのために設置された矛盾だらけの部門

さて、僕は除染ロボットの子守をやる前、1年以上にわたって「車両サーベイ」という部門にいた。この部門は、あらゆるヒトや物の出入りが厳しく制 限されている管理区域の境界で、日に500台を超えることもある工事車両の退域時に車体と運転手の汚染の有無を測定し外部流出を防ぐという守衛的モニタリ ングの業務であるが、それは実に建前にすぎない。それはとてもモニタリングと呼べた代物ではない自己矛盾をはらんでいるのだ。マスク、タイベック、下着、軍足といった管理区域外への持ち出しが原則禁止されている東電提供の装備品を車内に発見しては投げ出して無慈悲に没収するという見事な〝東電の犬〟を演じてみせる業務、それが車両サーベイだ。

この業務は震災収束後も遙かに続く復興ロードマップ上の短期的重大目標である「東京オリンピック」の成功を睨みつつ、構内環境や安定化事業の安全と機動性を確保する必用から、事故当初の非常事態の無秩序を労働法規の支配下の〝平常運転〟可能な“てい”に現場を適法化するため設置された法定ガイドラインの遵守を担保する要件のひとつであった。

東電が責任を負う安全対策というアリバイ工作部門として、対外パフォーマンスを演じると同時に、環境や事業の進捗、外部の目に対応して、東電の都 合次第で伸縮自在に運用される詭弁のツールであり、要は非常に矛盾に満ちた現場だった。日本の原発という、そもそもの存在論を顧みれば、存在する限り矛盾 は不可避であるどころか、矛盾であることがその存在目的でもあるのだ。この部門は原発事故現場でしか存在し得ず、また安定化プロセスの初期段階にしか必要 とされない、世界唯一の新設業務であり、矛盾だらけの原発業界の中でも特に矛盾だらけの1Fを象徴する滑稽な縮図だった。

(略)

釣さんは毎日個人線量計を鳴らしながらやってくる。といっても線量オーバーという意味ではない。個人線量計には、1F構内に原則として九時間以上滞 在することを禁ずる法令に従って制限時間が近づくと鳴動する機能があり、彼はいつもぎりぎりの時間に帰宅手段のデミオをサーベイしに来るのである。車に汚 染があれば除染を終えないと構内から出せないというのに、それを見込んでいるとは到底考えられないぎりぎりの時間にサーベイしに来る。汚染の可能性が高い 現場を移動する車両は構内保管し、通退勤には巡回バスなど別の車両を利用するのが常識だが、彼は現場車で入退域し続けた。一度アラームが聞こえない日が あって、退域時間はいつも通りなのに珍しいと伝えたところ、途端に彼は血相を変えて線量計を置き忘れた休憩所へ戻っていった。言うまでもなく構内では線量 計を肌身離さず持っていないと法令違反である。

運転者が身体サーベイ場へ移動するため降車する際には靴カバー着用が義務付けられているが、1F初心者がそれを怠りがちなのは無理もなく、その 際、乗車する足裏をサーベイメーターで測定し、次回からの靴カバー着用をお願いするのだが、釣さんは次回も靴カバーを忘れて直降りし、その後一週間ほどし ていま一度忘れた。

全文は福島第1原発で命を落とした釣さんの勇姿 - 1F殉国者に黙祷

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