添田孝史
東電の闇はどこまで解明されたのか
2018年12月27日に開かれた第36回公判では、被害者参加制度による遺族の代理人弁護士として、海渡雄一弁護士、大河陽子弁護士、甫守一樹弁護士が意見を述べた。
検察官役をつとめる指定弁護士らは刑事裁判のプロ。一方、この日意見をのべた代理人弁護士らは、東電株主代表訴訟や各地の運転差し止め訴訟にかかわる原発訴訟の第一人者だ。その視点から、公判における証言や証拠を分析した結果が示された。海渡弁護士は「私たちは、この事故は東京電力と国がまじめに仕事をしていれば防げたこと、その責任が明らかにされなければ死者の無念は晴らされないと考える」と述べ、指定弁護士と同様、禁錮5年の処罰を求めた。
「ちゃぶ台返し」、2008年7月31日より前だった?
東電で津波想定を担当する土木調査グループの社員たちは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部、推本)が予測する津波(15.7m)への対策が必要だという意見で一致し、具体的な工法等の検討を進めていた。それを被告人の武藤栄氏が、2008年7月31日に止めてしまった。津波対応の方針をひっくり返してしまったことから、7月31日は「ちゃぶ台返し」の日とも呼ばれてきた。
海渡弁護士は、「ちゃぶ台返し」は、本当はこの日より前だったのではないかという疑念を示した。7月31日とすると辻褄が合わない証拠がいくつもあるというのだ。
会合41分後、手回しの良すぎるメール
その一つは、7月31日の会合が終わってから41分後に、酒井俊朗・土木調査グループGMが、日本原電や東北電力の担当者に送ったメール[1]だ。
それまで東電は、日本原電や東北電力に対して、「地震本部の検討結果を取り入れざるを得ない状況である」[2]と説明していた。
この方針が、この日の会合でひっくり返された。酒井氏は第8回公判で「今まで東電が実務レベルで説明していた結果と違う方向になったので、これはちょっと早く東北さんと原電さんに状況説明しないと、ものすごく混乱するなと思って、すぐにメールを出しました」と証言している。
海渡弁護士は、このメールを「手回しが良すぎる」と見た。メールでは、今後の方針のポイント、これから検討すべき事項について部下への指示などが具体的に書かれている。さらに、他社との会合候補日まで書かれているから、それに先立って社内で部下と日程を打ち合わせする時間も必要だったはずだというのだ。「事前に武藤氏の出していた結論を知り、事前に打ち合わせが済んでいて、事前に途中までこのメール作成を準備していたと考えないと、説明のつかないスピードである」と海渡弁護士は述べた。
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