埼玉県秩父に住むイスラエル人、ダニー・ネフセタイさん(61/写真)を招いた講演会が2月11日、大阪市生野区の大阪聖和教会であり、70人であふれ返った参加者が「平和」について共に考えた。東京電力福島第1原発事故で大阪市に母子避難している森松明希子さん(44)もゲスト出演。ダニーさんとの対談や会場からの活発な意見交換もあり、安倍晋三政権の下、原発事故がなかったことにされようとする動きを強く批判した。つるのはしマルシェ実行委員会主催。
●「国のため、しょうがない」と思わされ
家具職人のダニーさんは、さまざまなジョークを交えて参加者を笑いの渦に巻き込みながら、しかし危うい世界情勢をスライドを交えて説明した。2016年11月の福岡講演を報告した拙文と重複する部分は極力省略しよう。未読の方は以下を参照していただきたい。
http://www.labornetjp.org/news/2016/1219hayasida(略)
ダニーさんの友人が昨年5月に伝えてくれた、就職活動中の女子高生たちには考えさせられるものがあった。シューティングゲームにいそしんでいる後ろ姿の写真だ。自衛隊朝霞駐屯地(埼玉県朝霞市など)を訪れた一行に、作戦内容や敵戦車撃滅指示が出され、彼女たちはゲームに没頭する。戦争を身近なものとして理解させる効果がありそうだ。自衛隊も大手企業も、就職先として同列なのかもしれないが、ドローンによって遠隔地からボタン一つで「敵」を殺傷できる現代の戦争である。こうしたゲームがゲームにとどまらない感覚マヒにつながらないかと心配してしまう。
(略)
「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。(中略)しかし最終的には、政策を決めるのは国の指導者であって、民主主義であれファシスト独裁であれ議会であれ共産主義独裁であれ、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。(中略)とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者が愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ」
(略)
●内部被曝を無視する再稼働の恐怖
「3・11」以後、ダニーさんは戦争と原発の共通点を感じ始めた。それは、カネ。「カネになるならやる。ならなければやらない。とても単純」と告げる。
昨年100歳で亡くなった肥田舜太郎さんと3時間話したこともあるという。肥田さんは、広島で被爆しながら、すぐに被爆者の救援・治療にあたった医師で、内部被曝の恐ろしさを終生、説き続けた。米国の統計学者が40年間の乳がん死亡者を分析した結果、原発を含む核施設から100マイル(約160キロ)内の乳がん患者が顕著に増えているというデータを肥田さんから紹介され、原発は事故を起こさずとも稼働するだけで人の命を縮めるものだとダニーさんは感じ取った。稼働すれば空と海に微量ながら放射性物質が出てしまう。それが内部被曝につながったとき、人の体に変調を来す可能性が高い。日本も乳がんが増えてはいるが、要因が放射性物質に限定できないことを奇貨として政府は原発再稼働に向かっていく。ダニーさんは「本来、私たちの人権を考えるなら、調べ尽くしもせず『大丈夫だろう』と再稼働するのは犯罪に近い」と語気を強めた。
そして、軍隊の本質を3点にまとめる。まず、差別。自分が正義であり、相手は悪と規定する。「そうでなければ戦えないね」とダニーさんは実感を込めて話す。次に、人間のランク付け。軍隊では命令に従うしかない。最後に、武力解決。何か問題が発生すれば外交ではなく武力。もしパイロットになっていたら、軍隊の中で自分はどうなったか。一面がれきと化したガザの空爆跡を映し出しながらダニーさんは「間違いなく私もこれに関わっていた。自分の性格が分かるから。あの中では、やります。いい人、悪い人、関係ない」と断じる。パイロットになった当時の仲間たちを思い出しながら、「ここには悪魔も悪人もいない」と繰り返したのは、閉じられた状況に置かれた人間というものの弱さと狭量を知るからであり、だからこそ最終段階でパイロットから特殊レーダー部隊へ配置換えされた自分こそに「すばらしい人も平気で人を殺すようになる。人殺しになりたくなければ戦争を避けることだ」と言い続ける使命があると思っている。
(略)
今までやっていない活動が必ずある。既成のままでは負ける。国民の大半は無関心層だ。ダニーさんは円グラフを見せながら、1割程度の関心を持っている層に私たち「声を上げる0.1%の層」が働きかけて、そこから大地を動かそうとけしかける。「戦争反対の声を上げなければ戦争賛成に数えられる」現実を肝に銘じる時期に入ったようだ。「戦争」はまた「原発」にも置き換えられる。「3・11」後、ダニーさんは友人の輪が変わった。昔のままの人たちから、将来の見える人たちに変化したのだ。「想像力と心を使おう。政治家や国には時間も予算も負けるが、人数はこちら側が圧倒的に多い。その力をつなげればいい方向に向かいます」
●「逃げずに復興」は戦時中にそっくり
(略)
「戦前戦中と同じ状況を、すでに今、全国の皆さんは目撃している。『茶色の朝』はオーバーラップする」と語る森松さんは、被爆者がつらい思いを抱えながらも原爆被害を語り続けてきたことが昨年、ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)のノーベル平和賞につながったと振り返りながら、核が人の命や健康に対して影響を与える非人道性を伝えた意義を語った。しかし、福島原発事故に対して政府は「逃げずに復興」を推し進める。「空襲は逃げずに火を消せ、の戦時中にそっくりだ。福島から出ないで頑張っている姿を国民に見せることが国威発揚になる。日本人は美談が大好き」という根性称賛に森松さんは待ったをかけた。応援はありがたく、心を合わせてくれることの一体感は喜ぶべきではあっても、逃げることが身を守る一つの行為であり、核の悲惨さを理解していれば「逃げずに復興」の美しいスローガンに賛同してはいけない。「甲状腺がんの原因を追及もせず、ただ帰還政策に走るのは世界的に見ても非人道的だ」と批判した。
●息を潜める「隠れ避難民」に思いはせ
森松さんは自分が避難できたのは被爆者たちの声のおかげと感じている。一方、被爆者たちには「核の平和利用」を認めてしまったことへの後悔があり、福島原発事故に最も胸を痛めているという。被爆2世、3世は、核の影響が甲状腺がんにとどまらず、さまざまな疾患に及ぶことを知っている。
(略)
自分は避難できたことで終わりでも、子どもが助かったからそれでいいとも思わない。同じように子どもを産み、育てた福島のママ友達がいる。「(福島を)出れる制度があれば出たかったという声は、これまで報道されたでしょうか。聞かれたでしょうか」と涙ぐんでしまうのは、福島から出られない事情があって苦悩しつつ息を潜めているママ友達やその子どもたちの顔が浮かんでしまうからだろう。2012年に施行された「子ども・被災者生活支援法」も有効に機能しているとはいえないようだ。一方、「福島の事故は終わった。一部の甲状腺がんは関係ない」と黙殺される。森松さんは「でも想像してほしい。実際、病気になってから訴えるって難しい。治療に専念しますよね。自分の子どもが病気だったら裁判とか声を上げるとかできない。福島に住んでいる人でも、平穏を装いつつ、いつ自分の子が(病気に)あたるか分からない状態にある。それを口にするのもイヤだし忘れたい。だから普通に暮らしているようにしてると思う。実際、低線量の被曝の影響は目に見えてすぐ明らかになる人のほうが少ない。でも、それを言える人が言わなくって誰が言うんですか」と思いを吐き出すように一気に語った。
将来この国を支える子どもたちの健康を第一に守ることこそ国の責務であると信じる森松さんは、だから「隠れキリシタン」ならぬ「隠れ避難民」の声なき声を代弁し、その地にとどまることも避難することも帰還することも自由に選べる「避難の権利」を求めて原発被害者訴訟原告団全国連絡会共同代表を務める。また、関西へ避難してきた人たちでつくる当事者団体「東日本大震災避難者の会Thanks&Dream(サンドリ)」の代表としても活動を絶やさない。昨年発刊した冊子『3・11避難者の声~当事者自身がアーカイブ~』には森松さんを含め多くの避難者の赤裸々な声がぶつけられている。匿名が目立つのは、表立って声を上げる難しさを表していよう。森松さんは実名で矢面に立つ。これは人ごとではない。普通の日常が突然破壊された当事者の、後世に残す教訓として読者に想像力を要求する勇気ある証言となっている。
(略)
「今度こういう原発事故が起きたら、みな立ち上がるだろう」という妙な楽観だ。ダニーさんは断言する。「浜岡原発(静岡)なら東京の近くだから変わるけど、泊(北海道)や川内(鹿児島)だったらほとんど何も変わらないと考えている」
森松さんは、自分の周囲だけでなく視野を広げる。世界の被曝を考えれば核被害の非人道性は地球規模でとらえるべきだと前を向いた。「みんな地球の住民なんだもの」。そして、戦争被爆を局限して核被害を侮りすぎていたという悔恨を吐露する。大阪に避難しつつも福島を日々ウオッチングし「放射性物質が色もなく、においもせず、低線量で被害がすぐには表れないことをいいことに、いかようにも言いくるめる姿を見せつけられている」とイラ立ちを隠さない。「次にもっと大きな事故が起きた時は」と言って今動かないのは、問題を先送りにしただけの言い訳にすぎないと戒めた。事故を起こさせない事前の闘いこそ最重要である。
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