東京電力福島第一原発事故で避難した福島県楢葉町の男性に対し、東電が支払い済みの賠償金約五千万円の返還などを求めていることが分かった。東電は男性が事故時、賠償対象外の神奈川県に単身赴任中だったことが判明したためと説明。男性は「住民票は楢葉町にあり、毎週末帰宅していた」と反論、訴訟も検討している。
返還を求められているのは現在、福島県いわき市に避難中の不動産会社社長新妻(にいつま)宏明さん(58)で、東電から今年九月、本来は賠償対象ではないのに約五千百十万円を支払っていたことが判明したとの文書が届いた。
東電側は、うち二千九百八十万円について実際に返還を求め、残り二千百三十万円は、今後支払う賠償などを減額して相殺するとした。文書に理由は記載されず、問い合わせると「事故発生時に賠償対象区域外に生活の本拠地があった」とのメールが届いた。
東京都内にある東電の子会社に勤めていた新妻さんは事故時、妻玉美さん(57)を楢葉町の自宅に残し、川崎市の社員寮で単身赴任中だった。しかし毎週末に自宅に戻り、親戚付き合いや町の行事に参加し、少年サッカーチームの指導員もしていた。
このため生活の本拠地は楢葉町だったとして、賠償を請求した。書類で社員寮にいることも伝えており「東電は単身赴任中と把握した上で賠償したのではないか」と主張。賠償金は自宅の再建費用などに充当済みで、当初から対象外と言われれば、賃貸物件を借りるなど別の選択ができたと訴えている。
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◆法的、道義的にも問題
<原発事故被災者の賠償に詳しい米倉勉弁護士の話> 民法上の「生活の本拠地」には、生活の実態があるという客観的な要素と、本人が「ここが自分の拠点だ」と感じている主観的な要素が必要だ。家族などとのつながりが実家にあり、毎週末帰省していた事実があるのなら、実家の方が生活の本拠地だという主張を否定するのは法的に問題があるだろう。そもそも住所がどこであろうと、帰る場所を失った単身赴任者も精神的苦痛を受けており、原子力損害賠償法の対象となるはずだ。単身赴任先について事前に明記されているのに、後になって返還を求める東電の対応も道義的に問題がある。