東日本大震災による東京電力福島第1原発の事故で、東電の勝俣恒久会長(71)が30日、“謝罪会見”を行い、深刻な状態にある同原発1~4号機について「廃炉にせざるを得ない」と東電首脳として初めて明言した。だが、沈静化については「安定は数週間では難しいのではないか」と、長期化するとの厳しい見通しを明らかにした。各号機のタービン建屋にたまった高放射線量の水の除去作業は、1号機で一時中断するなど依然、難航。また、東電の清水正孝社長(66)は29日夜、再び体調不良でダウンし緊急入院した。
「このような事態を引き起こし、ご迷惑をかけたことをおわび申し上げます」。ダウンしたと発表された社長に代わり、指揮を執る勝俣会長は、メモを読み上げるように謝罪の言葉を口にすると、深々と頭を下げた。
深刻な状態に陥っている1~4号機については「客観的に見ると、廃炉にせざるを得ない」と明言。東電首脳の廃炉表明は初めてだが、震災発生から20日目だけに、今さらながらともいえる。廃炉措置としては、チェルノブイリ原発と同様に、コンクリートと鉄板で覆う「石棺」も「ひとつの方策」とした。
だが、肝心の原発の現状については、心もとない答弁に終始。「正確に把握するのは非常に難しい。一応の安定はしている」とした上で、「炉が“変な風に”ならないという“とりあえず”の安定です」と何ともあいまいで、歯切れの悪い言葉を発した。原子力安全委は、その後の会見で、この「安定発言」に対して異論を唱え、「予断を許さないと思うのが普通で、それに対応するのが事業者の責任」と厳しく指摘。同委によると、1~3号機で原子炉圧力容器の損傷の可能性があるという。
勝俣会長は、廃炉の前にまず行うべき、現状収拾策を問われても、「いろいろな手段を検討している」と、具体的で抜本的な案は示せないまま。「最終的に安定するには、かなり時間がかかり、数週間では難しいのではないか」と、めどが立たず、長期化するとの見方を示すのがやっとだった。
現場の復旧作業は難航。各号機タービン建屋内で、作業の障害となる高放射線量のたまり水を除去するため、復水器に移す作業が続く。24日に排水開始した1号機では、水位が当初の40センチから20センチに下がったが、復水器が満水になり29日朝に作業を停止。さらに別に移す作業をしなければならない。
また、経産省原子力安全・保安院は30日、原発放水口付近で29日午後に採取した海水から、法令が定める濃度限度の3355倍のヨウ素131を検出したと発表した。これまでで最も高い数値。汚染水放出が続いている可能性がある。
初期対応の不備を問われ「まずさはなかった。ベストを尽くした」と強調した勝俣会長。だが結局、謝罪会見で明らかになったのは、国民が、この先もまだまだ不安を抱えたまま生活しなければならない、という厳しい見通しだけだった。
◆廃炉 耐用年数を経過したり事故で使えなくなったりした原発を解体・撤去、封じ込めの措置を取ること。解体撤去は使用済み燃料を取り出した後に5~10年、放射能レベルが下がるのを待ち着手する。原子炉を閉鎖し環境監視する「密閉管理」や、遮蔽壁で閉じ込める「遮蔽隔離」もある。日本初の商業炉の廃炉は1998年に運転を終えた日本原子力発電の東海原発(茨城)。浜岡原発1、2号機(静岡)も廃炉が決まっている。