「人間だけが持つ英知の所産である原子力の活用を一度の事故で否定するのは、一見理念的なことに見えるが実はひ弱なセンチメントに駆られた野蛮な行 為でしかありはしない」。これは、2011年2月6日付の産経新聞に掲載された石原慎太郎東京都知事の発言だが、多くの問題を含んでいるのでくわしく検討 してみよう。
まず、石原さんは「人間はさまざまな内的な衝動によって行動を起こす」として、そのネガティブな事例としてオウム真理教や魔女狩りの狂気を取り上げ る。この狂気は「独善排他的で時に有害」であり、狂気の「当事者たちはそれがある種の理念に依るものゆえに、理の通ったものと確信してやまない」。
理念を逸脱して、人を狂気へと導くものは「情念(センチメント)」であり、「それは理性をも越えて優に人間を左右してしまうもの」だと石原さんは言 う。そして、「その最たる現象は恋愛」だと指摘した上で、昨年12月に発生した長崎ストーカー殺人事件の異常さを紹介する。ここまでは、非常に真っ当なこ とを仰っていると思う。
だが、問題はここからだ。