鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)
原発事故により政府の避難指示が出されなかった区域から福島県外へ避難している〝自主避難者〟に対し、福島県の家賃補助制度に上乗せする形で月額1万円を独自支給してきた北海道、新潟県、神奈川県、沖縄県が揃って、3月末で支給を終了させる。4道県の担当者は取材に対し「福島県が家賃補助制度を3月末で終了させる以上、上乗せ支援も終了せざるを得ない」と回答。今後は見守りや相談業務などでの支援に移行するという。原発事故による〝自主避難者〟に対する金銭的な支援は全て終了する事になり、避難当事者や支援者は危機感を強める。家賃補助終了まで2カ月余。避難者切り捨てが加速する。
【「2年後の打ち切り前提で無い」】
4道県によると、今年度〝1万円上乗せ支援〟を受けている避難者は、北海道68世帯、新潟県112世帯、神奈川県95世帯、沖縄県78世帯。対象の避難者に対しては「12月末に文書で終了を通知した」(沖縄県消費・くらし安全課)、「年明けに文書で終了する旨お知らせしている」(北海道地域政策課地域政策グループ)。避難者からの問い合わせや制度継続を求める声は今のところ無いという。
神奈川県の黒岩祐治知事は今月25日の定例会見で、終了の理由について「福島県が避難者の皆さんに『福島に帰って来て欲しい』ということから、福島県の家賃補助制度は予定通り今年度末で終了となるということです。この制度に上乗せする形としてきました本県の家賃補助制度(1万円)も、やはりこれは同じように終了せざるを得ないというふうに考えています」と説明した。
〝自主避難者〟に対する福島県の住宅支援策は、2017年3月末で災害救助法に基づく「みなし仮設住宅」としての無償提供が終了。激変緩和措置、経過措置として、民間賃貸住宅に入居する〝自主避難者〟のうち月収が21万4000円に達しない世帯を対象に、2年間限定の家賃補助制度(初年度月額3万円、2年目月額2万円)を導入した。それに独自に1万円を上乗せ支給しようと予算措置したのが4道県だった。
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【依然多い「住まい」「生活費」の悩み】
しかし、当時の勢いはすっかり影を潜めてしまった。4道県の担当者は今回、取材に対し「もともと2年間で終了の予定だった」(新潟県震災復興支援課)、「2年間限定の福島県の家賃補助の協調したのであって、2年間での終了は予定通り。打ち切りでは無い」(神奈川県災害対策課支援調整グループ)、「そもそも始める時に2年間の予定だった」(沖縄県)と口を揃えた。
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新潟県が今月18日に公表した「避難生活の状況に関する調査結果」によると、「困りごと、不安なこと」で「民間賃貸住宅家賃補助終了」を挙げた〝自主避難者〟は11%。「生活費の負担が重い」の18%と合わせると、約3割が家賃を含めた生活費に関して困っている状況が分かる。「行政への意見・要望」でも「避難者への支援の継続」、「民間賃貸住宅家賃補助の継続」が合計25%に達した。
神奈川県でも、臨床心理士会による「かながわ避難者見守り隊」が2018年夏に実施したアンケートで、「現在の生活で困っていること、不安なこと」に対する回答で一番多かったのが「住まいに関すること」だった。二番目が「生活資金に関すること」。原発避難者にとって、住まいや家賃、生活費に関する悩みが続いている事が浮き彫りになった。だが、金銭的な支援はいよいよ終了する。災害救助法の主体者である福島県の内堀雅雄知事も、家賃補助制度の3月末での終了方針を変えていない。
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原発避難者支援を続けている「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作さんは「福島県が支援を打ち切る事で、避難先自治体も追随する。原発避難者は政府や福島県から切り捨てられ、避難先自治体からも見放される。『私たちのことを、私たち抜きで決めないで』と声をあげても、『自主避難は自己責任だ』と言い放たれる。どんなに避難者が困窮状態でも、政府や福島県は〝見せかけの復興〟を演出したいのです」と憤る。
「3月末での退去を迫られている江東区東雲の国家公務員住宅で、先週末も住宅相談会を開催しました。期限内で退去しないと〝不法占拠〟とみなし2倍の使用料を請求するぞと迫られ、避難者は焦っているのです。『4月以降の家賃が払えない』、『転居費用や更新料が払えない』などの困難を抱える避難者の声が、避難の協同センターにも届いています。『カードローンで資金を調達するしかない』という声すらあります。4月以降、『家賃滞納』、『多重債務』状態に陥る避難者が増加する事は確実です」
全文は【原発避難者から住まいを奪うな】「福島県が終了させる以上は無理」。4道県独自の家賃補助〝1万円上乗せ支援〟も3月末で全て終了。独自支援への感謝と切り捨てへの怒りが交錯する避難者