「避難者の苦しみなんて眼中にない」-。六日、東京電力福島第一原発事故で避難生活を強いられた福島県浪江町の住民約一万五千人が申し立てた裁判外紛争解決手続き(ADR)が打ち切られ、申し立てに加わった住民からは、和解案を拒否し続けた東電の対応に怒りの声が上がった。事故から七年あまり。住民の暮らしは今なお不安定だ。 (内田淳二、山本哲正、佐藤圭)
浪江町の自宅で車の手入れの最中、打ち切りのニュースを聞いた赤間徹さん(55)は「東電はなぜそんなに強気なのか。どちらが被害者なのか分からない」と憤った。
赤間さんは、第一原発で配管の溶接などの仕事に携わったことがあり、福島県郡山市に家族を残して町に戻った。帰還前は車で原発まで通っていた。国の紛争解決センターは、現状の月額一人十万円に一律五万円上乗せするなどの和解案を示していた。赤間さんは「慰謝料はもらっていたが往復のガソリン代に消えてしまった」と嘆く。
帰還しても町にはスーパーもなく、生活は非常に不便。除染も十分とはいえず、被ばくも心配だ。赤間さんは「知り合いの何人かもいったんは帰還したが、あまりに不便なので避難先に戻った。そういう状況を東電や行政にもっと知ってもらいたい」と訴えた。
◆「加害者意識ない」
福島市に避難している今野寿美雄さん(54)は「交通事故で加害者が賠償しないのと同じ。東電には加害者意識がない」と断じた。
「五十をすぎて仕事もなく、貯金を崩しての暮らしは非常に苦しい」と漏らす。東電には和解案を受け入れてほしかった。「まともな賠償もないから慰謝料を求めている。これでは先が見えない」
埼玉県内に避難している主婦(43)は中学生と大学生の子どもがいる。打ち切りには「行き詰まっていると知っていたから驚きはない」と話す一方、原発の再稼働を推進する国への不信感は募るばかりだ。「子どもの初期被ばくの不安は抜けず、それでも子どもたちは浪江に帰りたいと言ってる。第一原発は廃炉作業中なのに勝手に終わったことにしないでほしい」
[…]