この人に聞きたい 武藤類子さんに聞いた(その1,その2)via マガジン9

編集部
 […]あのスピーチからまもなく2年が経とうとしていますが、その「怒り」はどう変化しましたか。
武藤
 基本的には変わっていない、と思います。ちょうど先日、原発事故以前に撮った写真を見ながら友人と話していたのですが、「このころとは(自分たちは)明らかに変わったんだよね」と。本質は変わらないのかもしれないけれど、「鬼になって」しまった、そうならざるを得ない状況があるんだよね、と言っていたところです。
 ただ、2年という時間が経って、怒りだけではなく冷静さが大事だともより強く思うようになりました。怒りは原動力にもなるけれど、それに身を任せるだけではなくて、ここからどう進んでいけばいいのかを冷静に見つめる時期でもあるのだと思います。
[…]
武藤
 全国10カ所に事務局を設置して、そこを拠点に各地で150回以上の説明会を開きました。私も、全部で60カ所くらい回ったでしょうか。集まってくださる方は皆さんとても関心が高くて…ただ、中には「本当に私たちが“被害者”でいいのでしょうか。むしろ加害者なのでは」とおっしゃる方もいらっしゃいました。
編集部
 原発を立地地域に押しつけて、便利な生活を享受していた、ということですね。
武藤
 それはとても大事な視点だと思いますが、私は「だからこそ責任を問う立場に立ってほしい」とお話ししました。「原発に反対してこなかった」ことを加害性と捉えるなら、それは福島県民にだって、誰にだってある。でも、だからこそきちんと責任を問い直して、新しい価値観の社会をつくるための一歩を踏み出してほしい。そういう責任の取り方もあるのではないか、と。もちろん、「やはり自分は被害者とはいえないから、告訴人ではなく告発人になる」という方もいらっしゃいました。それはご本人の意思を尊重しましたが。
[…]
編集部
 一昨年の「さようなら原発5万人集会」でのスピーチには、「真実は隠されるのだ/国は国民を守らないのだ/事故はいまだに終わらないのだ…」といった、情報を国民に公開せず、被曝や健康被害を防ぐための十分な措置さえ取らない政府への、強い怒りの言葉もありました。それについては今、どのようにお考えですか?
武藤
 先日、改めて読み返してみて、書いたことがどんどん現実化している、と愕然としました。
[…]
今、「復興」という言葉があちこちで叫ばれて、「復興ムード」が漂っているという現実も福島にはあります。観光協会が「風評被害を吹っ飛ばして、観光客を呼び込もう」と呼びかけたり、林業の復興のために森林の除染をやろうとしている方たちがいたり…。それは難しいのでは、と思う一方、もちろん住んでいる人たちの暮らしを成り立たせることも大事ですし、状況はとても複雑です。何より、周りの人と立場や意見が違うだけでなかなかものが言えない雰囲気があること、事故から2年が経ってそれがますます強くなっていることが、非常に問題だと思っています。
[…]
編集部
 [沖縄に]行って、話をしてみないとわからないことがたくさんある。それは、福島にも共通することかもしれません。
武藤
 そうなんだと思います。ともすれば「沖縄の問題」「福島の問題」として封じ込められてしまいがちな点も同じだと思いますし、どちらも「国策」としてやられている、国を相手に闘わなくてはならない、という点も共通項だと感じました。
[…]
だから、一挙に何かが変わって、すぐに原発がなくなるなんてことはないとしても、せめて私たちがこれからどちらの方向を向いて生きていくのかという道筋はつけたいと願います。そのために、私たちは今、声をあげ続けなくてはならないのだと考えています。

その1をもっと読む。
その2をもっと読む。

This entry was posted in *日本語 and tagged , , , , . Bookmark the permalink.

Leave a Reply