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Tag Archives: 文学
原発を詠む(53)――朝日歌壇・俳壇から(2018年10月21日~12月9日) via かわたれどきの頁繰り
朝日新聞への投稿短歌・俳句で「原発」、「原爆」に関連して詠まれたものを抜き書きした。 八月に防護服着て作業する彼らの汗を知らないは罪 (横浜市)森敦子 (10/21 馬場あき子選) 一年に満たぬ短き休暇後に昏(くら)く静かに原子炉は燃ゆ (高松市)島田章平 (10/21 佐佐木幸綱選) 九つの核保有国言えぬくせ反対かよと子は吾を見ず (高松市)一宮佳 (10/28 佐佐木幸綱選) 汚染水八十九万トンのタンク群上空には五年目の秋雲 (福島市)美原凍子 (10/28 高野公彦選) ふくしまの牛には競りのランプ減り牛も牛牽(ひ)く男も俯(うつむ)く (福島市)青木崇郎 (11/4 馬場あき子選) 被爆後の瓦礫(がれき)のなかを姉捜し彷徨(さまよ)いたる児が九十となる (西海市)原田覚 (11/11 永田和宏選) 原発事故風化の中に帰る所無きまま彷徨(さまよ)う八年目の苦闘 (いわき市)守岡和之 (11/18 佐佐木幸綱選) 本当にやる気あるのか核禁止出来ない理由ばかり並べる (筑紫野市)二宮正博 (11/25 佐佐木幸綱選) 福島はフクシマを抱き酒倉に新酒の満ちて「郷酒(さとざけ)」と言ふ (浜松市)石原新一郎 (12/2 馬場あき子選) 雑踏にうづくまる人原爆日 (川口市)青柳悠 (10/21 高山れおな選) 「被爆樹二世」てふ札の柿熟るる (東京都)望月喜久代 (10/28 高山れおな選) 汚染土の墳墓の如く山眠る (福島県伊達市)佐藤茂 (11/25 大串章選) 被爆地の鮮やかに散るもみぢかな (長崎市)田中正和 (11/25 … Continue reading
群馬)原発事故の悲惨さ伝える 前橋の元教諭が本を出版 via 朝日新聞
人住まぬ庭に揺れてる秋桜 復興の朝までどっこい生きてやる 前橋市の元高校教諭、堀泰雄さん(76)が3月、「東日本大震災・福島第一原発事故 ふるさと福島を詠む」を出版した。福島県の元女性教諭らが詠んだ俳句や短歌一つ一つに、堀さんが福島県で撮った写真を添えた。 ログイン前の続き堀さんは、被災地の小中学校を支援する募金活動に加わるなど、震災直後から70回ほど被災地へ足を運んできた。これまでにも、被災地の写真などを載せた本も数冊出版している。 福島の被災地の様子を本にしたいと考えていたところ、福島の元女性教諭らが出版した、震災に関する俳句や短歌の本に出会った。地元の元教師が詠んだ言葉は、これまでに堀さんが被災地で撮影してきた情景と重なった。女性らの許可を得て、30ほどの俳句や短歌一つ一つに、自身が被災地で撮影した写真をつけて本にまとめた。 原発の弾けて群民飛び散りぬ この句には、福島県南相馬市にある石碑の写真を添えた。碑には、事故前に地区に住んでいた住民の名前が刻まれていた。「町があり、人が住んでいた記録を残そうという思いが伝わって、心がつぶれるような思いだった」 […] A4判カラー32ページで、税別500円。購入などの問い合わせは、堀さん(027・253・2524)へ。(篠原あゆみ) 全文
アーサー・ビナード 「広島70年式典の言葉について」(2015年11月 滋賀県近江八幡市)via Facebook
70年たって、広島では被曝体験をどのように語り継ぐかを色んな人が議論し行政も取り組んでいる。 今年、平和記念式典で語り継ぐ「演出」のようなものがあった。 これまで、今年の8月6日の式典ほど整ったものはなかった。滞りなく、つつがなく、すべてがスムーズに進んでいった。 あんまりにも整っていたから、電通か博報堂のスピーチライターを雇ったんじゃないか、と思う。うまい人がつくったキーワードは「命」。 「命」はすべてのスピーチに入っていた。少しずつ違う表現だったけど。スピーチライターが書いていることがばれないように、少しずつずらした。 市議会議長は「多くの尊い命を失った」。安倍総理大臣は同じ「とうとい」という言葉を使ったけど、漢字が違う。「一発の原子爆弾により、十数万人にものぼる幾多の貴い命が奪われ」と言った。市長は「その年の暮れまでに、かけがえのない14万もの命が奪われ」。みんな「奪われ」という動詞を使っている。 子どもたちが読んだ平和への誓いでは、「一発の原子爆弾が、建物、自然そして、たくさんの人々の大切な命を奪いました」。 全員、「命の大切さ」を言うことで、さも70年の節目の年に、命を大切に語り継ごうという演出。でも、細かく耳をかっぽじってきくと、違う意図があることに気づきます。 市長のスピーチは「私たちのふるさとには温かい家族の暮らし、人情あふれる地域の絆、季節を彩る祭、歴史に育まれた伝統文化や建物、子どもたちが遊ぶ川辺がありました。1945年8月6日午前8時15分、そのすべてが一発の原子爆弾で破壊されました。その年の暮れまでにかけがえのない14万もの命が奪われて……」と続く。 僕はクスノキの下で聞いているんだけど、松井さんがこれを読み上げた時に、広島の観光客のパンフレットを間違えて読んでいるのか、と思った。だって、これ、現在形だったら、今の広島に来てくださいね、って内容ですよね。でも「ありました」。過去形です。 これを、その通り受け止めると、広島という町は1945年8月6日まではパラダイス、こんないいところはない。広島という町は原爆投下の瞬間までは、温かい家族の暮らしと人情あふれる地域の絆があって、川辺で子どもたちが遊んでいる町だったんだよ?どうですか?この歴史認識、正しいですか?広島ってそういう町だったのかしら?僕はどうも、その時代は体験していないし、日本に来ていなかったけど、どうも僕の知ってる広島とは違うと思うんだ。広島が嫌いになったんじゃないよ。でも、1945年8月5日の広島は、家族の温かい暮らしと絆ではないような気がする。1940年も35年も30年も、どこまでさかのぼっても桃源郷の広島は見えてこない。 1945年8月5日の広島がどういう町だったかというと、日本第二の軍都です。東京が一番で、広島は西日本で一番の軍の都だった。軍の拠点です。三歩歩けば軍事施設にあたる町。平和記念式典が行われる場所が見えることころに練兵場があって、その練兵場で毎日毎日毎日毎日、他国の人を大量虐殺する練習を兵士たちがやっていて、広島で訓練を受けたやつが海を渡って、大量にアジアで人を殺したのが広島だった。広島は軍需産業で経済が回っていた。広島の経済はすべて軍需産業、人殺しの帝国の経済。温かい「貴族」の暮らしはあったかもしれない。でも、「家族の絆」なんて話をしている人は誰もいなかった。1945年8月5日の広島は「本土決戦」に備えて、一億総玉砕という言葉が飛び交っていて、そのために子どもたちを強制労働の現場に送り込んでいた。12歳、13歳、14歳の子どもたちが建物疎開という愚かな無意味な悪質な詐欺の作業をやっていた。建物疎開が何かというと、焼夷弾が降ってくると町が燃える、町が燃えると金持ちの家とか軍の施設まで燃える。それは困る。庶民の家が燃えても、庶民が全部失っても知ったこっちゃないけど、軍の施設は守りたい。そのために貧乏人の家を貧乏人の子どもに壊させるのが建物疎開。で、7000人ほどの12~14歳の広島の子どもたちが、上から軍から命令を受けて、8月6日の朝8時に、現場に入って解体作業をやっている。その子たちが全滅なんです。 誰が殺した?もちろん、原爆による大量殺戮をやった米政府が殺したんだけど、でも、それはいわば日米共同演習。松井さんだって、責任から逃れることはできないんだよ。松井さんは「かけがえのない14万もの命」と言った。1945年8月5日に、もし僕がタイムマシンで戻って、桃源郷の広島に戻って、僕が広島の人たちに「みなさんの命はかけがえのないものです」と言ったらどうなる?憲兵が来て、僕が捕まってぶちこまれる。学校現場で「貴い命」という言葉は絶対言っちゃいけない言葉だった。貴い命、かけがえのない命なんて1945年8月6日の8時の時点で広島に貴い命なんて、一片もない。 貴い命があるとしたら、それは千代田区一番町1の1それだけなんだ。あとは貴くない。日本国民は貴い命じゃない。貴くなりたかったら、命を捧げて靖国神社に行くのがいいんです。貴い存在になりたかったら、1945年には、他国にいて、大量に人を殺して、国のために虐殺して、運良く死んで靖国神社にまつられたら、あなたは貴い存在になれるんです。それが唯一の貴い命になる道です。だから貴い命は大本営発表では放送禁止用語。言えない。1945年8月6日午前8時15分の時点で貴い命という言葉は言論空間には存在しない。安倍さんが「この貴い10数万もの命」と言ったけど、噓八百。思ってないし、本人も。僕らの命が貴かったら、初めから、福島県や福井県に原発は作らない。僕らの命が貴かったら、安保法制は通さない。僕らの命が貴かったら、一億総玉砕とか一億総活躍とか言えない。もし、僕らの命が貴いって、この人たちが思っていたら、ああいう「演出」にはならなかった。 […] 日本政府と日本の企業、広告代理店はみなさんが永遠に、被爆者や戦没者のことを上から目線で見るようにしかけてくる。広島の被爆者、長崎の被爆者、福島の被曝者、セミパランチスクでずーっと被曝に苦しんでいる人、こういった各地でもっともっと増えるヒバクシャを自分とは違う存在として見るようにしかけてくる。米軍の兵士たちがどうして、長崎や広島のヒバクシャと連携しなかったのか、どうして戦後あれだけの米兵が同じように放射能にさらされて被曝させられて、大連合ができなかったのかというと、米兵の一人一人の心理の中には、勝ち組と負け組という観念、これで戦争を終わらせた、大変なことを成し遂げたという勘違いにだまされて、それで現地に入ってみたら長崎の人と同じように被曝した。それでも、長崎の人の被曝と自分の被曝が同じと捉えると、自分たちがやられた、自分たちが負けた、自分たちが被害者となる。その線を越えたくない。そう思いたくない。 それをどこまで僕たちが意識するか。そこに自分たちが立てれば、歴史の認識を見抜くことができる。 安倍総理は8月14日に、8月6日のあいさつと関わる「70年談話」を発表した。 「日本では戦後生まれの世代が人口の8割を超えています。あの戦争にはなんら関わりのない私たちの子や孫に、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わすつもりはありません」 あの戦争にはなんら関わりのない子や孫。 マスコミがちょっとだけ騒いだのは、「謝罪を続ける宿命を背負わすつもりはありません」。でも、僕はここはどうでもいい。みんなが素通りする言葉に僕は衝突した。 「あの、戦争には、なんら、関わりのない、子や孫」。 僕はここにひっかかった。 あの戦争に何ら関わりのないものは、この地球上に一つもないんだ。あの戦争の影響は今も、世界中で続いている。なのに、安倍さん、あなたは総理大臣であることはあの戦争とは何の関わりもないというんですか?岸信介は満州の植民地化と関わりないんですか?あなたの副総理の麻生さんの財産は、あの戦争とは関わりがないんですか?朝鮮人の強制労働と何の関わりもないことなんですか?あの戦争と関わりのないことは一つもないんです。その最たるものが被曝。いま、福島で日本民族がむしばまれていることはあの戦争、あの原爆と直結しているんです。長崎に落とされた爆弾と同じ原理の装置で、原発が運用されているんだから。そして原発、核開発は同じ人脈、同じ顔ぶれで延々と続いている。自民党の一握りの人たちがずーっとそれを握っている。だから、安倍総理は、「気にしなくていいんだよ、忘れていいんだよ」といった。それは「忘れて被曝しなさい、忘れてみんな地獄にいきましょう。忘れて無人の地球のまわりをぐるぐる回りましょう」とそういう道筋を安倍総理は日本の未来として、示している。 […] 続きは アーサー・ビナード 「広島70年式典の言葉について」(2015年11月 滋賀県近江八幡市)
被災地へ 届け ロシアの声 (17)スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ via 沼野恭子研究室
numano 日時: 2011年4月22日 23:20 ベラルーシのロシア語作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ(1948年生れ)。 旧ソ連・ロシア社会の抱える問題を取りあげ、人々から得た貴重な証言である「生の声」をもとにルポルタージュを書いてきた、いわゆるノンフィクション作家である。 第二次世界大戦、アフガニスタン戦争、チェルノブイリ原子力発電所事故、自殺等々さまざまな社会問題に果敢に取り組んできた。チェルノブイリ原発事故に関しては以下の邦訳がある。 『チェルノブイリの祈り――未来の物語』 松本妙子訳(岩波書店、1998) この度、三浦みどりさんを通じてアレクシエーヴィチに福島第一原発の事故について寄稿を依頼したところ、以下の文章を送ってくださった。この場をお借りしてお礼を申しあげたい。 チェルノブイリについて深く考えつづけてきたアレクシエーヴィチの声に、私たちは今こそ耳を傾けるべきではないだろうか。 ちなみに、今回の事故を契機に、『チェルノブイリの祈り』の改訂版がまもなく出版されるとのことだ。 =================== Чернобыль-Фукусима Маленькая великая Япония… У меня, как и у миллионов людей в мире, день начинается с того, что я включаю компьютер: что там? Благодаря новым средствам коммуникации … Continue reading
泉鏡花文学賞:長野まゆみさんと篠原勝之さんに via 毎日新聞
第43回泉鏡花文学賞(金沢市主催)の選考が14日、東京都内で開かれ、長野まゆみさんの短編小説集「冥途(めいど)あり」(講談社)と、篠原勝之さんの短編集「骨風(こっぷう)」(文芸春秋)が選ばれた。賞金は各100万円。授賞式は11月21日に金沢市民芸術村で開かれる。 「冥途あり」は語り手の東京下町育ちの父が疎開先の広島で被爆していた事実を明かす私小説的作品。「骨風」はユニークな鉄の芸術家として知られる著者の少年時代から現在までの家族や知人らとのさまざまな関わりを描いた。 全文は 泉鏡花文学賞:長野まゆみさんと篠原勝之さんに 参考 今週の本棚:持田叙子・評 『冥途あり』=長野まゆみ著 via 毎日新聞
「亡国記」を書いた 北野慶(きたの・けい)さん via 北海道新聞
5年前なら「ありえない!」と一顧だにされなかったかもしれない。だが、「3・11」を経験した今は、たった1カ所の原発で起きた重大事故が日本国自体を崩壊させるという物語が現実味を帯びて迫る。400字詰め原稿用紙約650枚の労作は、「近未来シミュレーション小説」とでも呼びたい読後感だ。 「(東京電力)福島第1原発事故が起きても原発をやめられない日本人に怒った神様が、時間を持て余しているやつを捕まえて、『大変なことになるぞ』と(警告するために)書かせてくれた気がする」と創作の道のりを振り返る。 […] 「(11年の)3・11で人生観がひっくり返された」と言う。当時は埼玉県在住。それまでは「国内に五十数基の原発があるのを考えることなく暮らしてきた人間」だった。3・11以降は東京都内の反原発デモにも参加した。だが12年12月の総選挙で脱原発に消極的な自民党が大勝。「すごい挫折感で1カ月ぐらいうつ状態になった」。13年4月に福島からより遠い岡山市に移った。 […] 「1人でも多くの人に読んでほしいと思い、分かりやすい言葉を使って書いた。原発が『それでも必要』と言う人にも」と願う。長年、向精神薬依存症に苦しみ、今年は先に「のむな、危険!」(新評論)も出版した。 もっと読む。
バタビアからアイヌの地へ 鎖国時代の蘭艦隊調査 作家・津島佑子さん via じゃかるた新聞
新作小説取材で来イ (2013年10月01日) 17世紀以降、アジア広域で交易を展開したオランダの東インド会社(VOC)の測量船がバタビア(ジャカルタ)を出発し、日本の北方でアイヌ人と交流して いた―。史実に基づき、壮大なスケールで描く小説の取材に、作家の津島佑子さん(66)がこのほど初めてインドネシアを訪問、オランダ植民地時代の面影が 残る旧市街コタ周辺などを巡り、VOCの痕跡をたどった。原発事故を経て日本の枠組みを再考するうちに、鎖国時代に日本を探索したVOCと日本の先住民族 であるアイヌの出会いに着目したという。滞在中、インドネシア大学で開いた講演会では、震災以降、日本の作家が直面する困難な状況や、早死にした文豪太宰 治の次女として、母子家庭で育った女性の家族観などについて語った。 […] ■声なき人々のために 4日間の滞在中、津島さんは、西ジャワ州デポックのインドネシア大大学院日本地域研究科で、同大と国際交流基金ジャカルタ日本文化センター共催の講演会で、「3.11後」の日本の作家が置かれた状況について説明した。 何十年も続く放射能の危険性を伝えたり、脱原発を訴えたりすることで、出版社からも「あの人に原稿を頼んだら何を書かれるか分からない」とにらまれかね ない現状があると指摘。原発事故を起こした国が原発の安全性を宣伝することに対し、異議を主張する少数派の人々のためにこそ作家は書かなければならないと 強調した。 特に原爆の被爆地である長崎で、米国は被爆者の女性の身体検査を実施し、生理の変化などを調べていたことを重視し、「今の日本が当時の米国と同じやり方 で、福島の人々の健康への影響を調べる一方で、福島は安全と宣伝している」と指摘。被爆者について書かれた作品を挙げ、「立体的にその場で経験したように 読者に感じてもらうことが文学の力だ」と説明した。 父である太宰治の作品について「言論統制が厳しかった戦争中に書かれ、人気を得たもの。現在まで読み継がれていると言われるが、マジョリティが喜び、仲間意識を持たせるだけの作品であり、声を出せない人々のために書く自分とは異なる」と話した。 全文は バタビアからアイヌの地へ 鎖国時代の蘭艦隊調査 作家・津島佑子さん
特集ワイド:日本よ!悲しみを越えて 歌人・俵万智さん via 毎日新聞
2012年02月24日 東京夕刊 […] 俵さんは03年11月に未婚のまま、男児を出産したシングルマザー。一人息子の匠見君を育てながら都心 で創作を続けていたが、幼稚園入園を控えて06年に、両親が老後の家を求めた仙台市に移り住んでいた。「母が仙台出身で、父も東北大大学院で学びました。 子どもの頃からなじみの深い土地だし、息子を土の園庭で伸び伸びと遊ばせてあげたくて。東京へも日帰り圏内だし、引っ越したんです」 それから4年余り。かつて家族や恋愛模様をうたっていた歌人の関心の対象は、最も大切な存在である息子 へと移った。<だだ茶豆、笹(ささ)かまなども並びおり仙台の子のおままごとには>。母親の眼差(まなざ)しに仙台の風土を織り交ぜた作品を詠むように なったが、震災がそれを中断させた。 幸い家族は無事だったが、交通機関はストップ。5日目にようやく山形経由で仙台入りした。<電気なく水なくガスなき今日を子はお菓子食べ放題と喜ぶ>。再会した息子が発した言葉はそのまま歌になった。 だが、東京電力福島第1原発事故による放射能汚染が重くのしかかった。いとこの勧めもあり、着の身着のまま、息子を連れて2人で仙台を離れる決心をした。<子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え>。その苦しい胸中を、そんな三十一文字で表した。 「子どもを被ばくさせてはいけない、安全な所へ逃げようと。那覇便が空いていたので、春休みいっぱいぐ らいは様子を見ようかと思ったんです。2月に始めたばかりだったツイッターに『西を目指す』と書いたら、大部分は励ましのツイートが寄せられたのですが、 『行ける人はいいね』『もう帰ってこなくていい』とかの批判もあって心に刺さりました」。それでも、息子を守れるのは自分しかいないと思い定めた。 […] <まだ恋も知らぬ我が子と思うとき「直ちには」とは意味なき言葉> 月刊誌「歌壇」の昨年9月号に寄せた歌。原発事故によるパニックを避けるために政府高官がひねり出したごまかしの言葉に、世事を直接的にうたうことを避けてきたはずの歌人は鋭く反応した。 「国って自分たちに何をしてくれるのとか、今までそういう見方で何かを考えたことはなかったんです。今 だってスローガン的には書きたくはない。けれども『直ちに』と言われた時に、後からだって影響が出たら困ります、だって子どもはまだ恋もしたことがないん ですよという、母親としての感情ならうたえるかなという気がしたんです」。そうした心境の変化は、子どもへの放射能被害を懸念する全国の母親たちの気持ち をまさに代弁していないか。 全文は 特集ワイド:日本よ!悲しみを越えて 歌人・俵万智さん