イエスかノーか。記者の質問には一切、答えない。原発事故に伴う問題に関する考えを問われても一切、答えない─。福島県の内堀雅雄知事は今年も、記者クラブとの定例会見で〝内堀話法〟を存分に発揮。肝心な質問には何も答えないまま、原発事故被害者の切り捨てを進めた。口では「福島には光と影の両面ある」と言いながら、実際には「影」は封印して「光」にばかり言及している。来年は東京五輪の聖火リレーや野球・ソフトボール開催で「原発事故から立ち直った福島の姿」を世界に発信したい内堀知事。水害被害も含めて「影」はますます封じ込められていく。
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口火を切ったのは朝日新聞の記者。2020年3月にJヴィレッジからスタートする聖火リレーのルート選定に関する質問だった。
「このルートが『福島の今』を伝える手段として最適だと思いますか?知事の言う『影』とは今回のルートのどこにあるのでしょうか?」
しかし、内堀知事は用意した答えを棒読みするばかり。「東日本大震災からの復興のシンボルであるJヴィレッジをスタートし、復興に向けて挑戦を続ける福島の姿や魅力を広く発信することができるルートだと考えております」。これでは記者が納得しないのも当然だ。「『今の福島』を伝えるのに最適だと思いますか、あるいは知事のおっしゃっている『影』とはどこにあるのですかという質問だったのですけれども」と再質問した。
内堀知事は「はい」と大きくうなずいたが、質問に正面から答えなかった。
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「そもそもこのオリンピックについて、安倍首相は2013年9月に situation is under control つまり『原発はアンダーコントロールだ』という言葉を使ってオリンピックを誘致しました。福島県知事として今、原発は『アンダーコントロール』だと思いますか?」
これにも的外れな答えに終始した。
「福島第一原発の廃炉対策が福島の復興にとって極めて重要であります。私自身が毎年のように原発へ伺って、一年一年で進展した部分も見ておりますし、一方で御承知のとおり、燃料デブリの対応や汚染水対策など、まだまだ解決しきれていない、あるいは今後の展望が明確でない廃炉対策の部分が残っていると思います」
記者は当然、こう続けた。
「質問は『アンダーコントロール』と思うかどうかだったのですが」
うんざりしたのだろうか。内堀知事はやはり得意のフレーズで質問を切り捨てた。
「ただいま申し上げた通りでございます」
記者は「『アンダーコントロール』だと思わない?」と畳み掛けたが、内堀知事は司会役の広報課職員の方に顔を向け、察した職員が次の質問に移した。まさに阿吽の呼吸だった。他社の記者は沈黙を貫いていた。
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【「光」ばかりの聖火リレールート】
「福島の光と影」は内堀知事の常套句だ。(略)
知事の言葉には〝自主避難〟の問題など無い。しかも、実際に決められた聖火リレーのルートからは『影』の部分など見えない。家屋解体が進み、帰還率も11月末現在で6%強にとどまっている浪江町は、福島ロボットテストフィールド浪江滑走路からスタートし、福島水素エネルギー研究フィールドでゴールする約600メートルがルートとして採用された。浪江町役場から徒歩で約1時間もかかるような〝異空間〟を走って世界の人々は浪江町の何を理解出来るのか。
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原発事故に伴う〝自主避難者〟への住宅無償提供が打ち切られても、国家公務員宿舎に入居する避難者を相手取って〝追い出し訴訟〟を起こす議案が県議会で可決されても、知事に厳しい質問をぶつけるのは一部の記者にすぎない。知事の外遊に地元紙記者が「同行取材」するのは恒例となっている。
なお、筆者は複数回にわたって知事会見で質問をしたいと記者クラブに申し入れているが、いずれも答えは「NO」だった。「部屋の最後方で立って写真を撮影するなら構わない」と「オブザーバー参加」のみ許されている。幹事社によって表現は異なるが、地元紙の記者は筆者に対し「フリーランス記者に質問を認めたら記者クラブの存在意義が無くなる。あなたが知事会見で質問する事は未来永劫無い」と言い放った。
全文は【105カ月目の福島はいま】答えない、はぐらかす…2019年最後の福島県知事定例会見でも貫いた「内堀話法」。原発事故被害者に〝寄り添うポーズ〟は今年も健在