原発を止めた裁判官が語る、運転停止を判断した恐ろしすぎる理由 via Mag2News

by 新恭(あらたきょう)

以前掲載の「呆れた無罪判決。東電の旧経営陣に刑事責任を科すべき明白な証拠」等の記事で、一貫して日本における原発の危険性を訴え続けてきた、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは今回、自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、福島第一原発事故後、初めて原発の運転差し止め判決を出した裁判官が語った「衝撃の事実」を記すとともに、原子力発電の復権を目論む安倍政権中枢は、原発の本当の怖さを分かっていないと断定しています。

樋口元裁判長はなぜ原発を止めたのか

福島第一原発の事故が起きてからこのかた、全国各地で提起された原発訴訟で、原発の運転を止める判決を出した裁判長はたった二人である。

そのうちの一人、元福井地裁裁判長、樋口英明氏は、12月1日に兵庫県内で行った講演で、なぜ裁判所が原発にノーを突きつけたか、その理由を理路整然と語った。

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二つの奇跡」を樋口氏はあげた。それがなかったら、東日本は壊滅状態となり、4,000万人が避難を余儀なくされたかもしれないのだ。

樋口氏は2014年5月21日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じ、2015年4月14日には、関西電力高浜原発3・4号機について再稼働差し止めの仮処分を認める決定を出した。電力会社にとっては“天敵”のような存在だった。

樋口氏は原発について、しっかりと情報を集め、冷静に分析したうえで、確信を持って運転停止の判断をしていた。

まず、福島第一原発が、どれくらいの地震の強さを受けたのかを把握しておこう。800ガルだ震度でいえば6強

この揺れで、火力発電所と電線でつながっている鉄塔が折れ、外部電源が遮断された。地下の非常用電源は津波で破壊された。800ガルの地震が原発に及ぼす影響の大きさを記憶しておいていただきたい。

福島第一原発は電源のすべてを失った。稼働中だった1、2、3号機はモーターをまわせなくなって、断水状態となり、蒸気だけが発生し続けた。水の上に顔を出したウラン燃料は溶けて、メルトダウンした

4号機でも空恐ろしいことが起きていた。定期点検中で、原子炉内にあった548体の燃料すべてが貯蔵プールに移されていたため、合計1,331体もの使用済核燃料が、水素爆発でむき出しになったプールの水に沈んでいた。

使用中の核燃料なら停電すると5時間でメルトダウンするが、使用済み核燃料はエネルギー量が少ないため4、5日かかる。しかし、使用済み核燃料のほうが放射性降下物、いわゆる「死の灰はずっと多い。もし、4号機の使用済み核燃料が溶融したらどうなるか。

菅首相の要請を受けて、近藤駿介原子力委員長が、コンピューター解析をさせたところ、放射能汚染で強制移住が必要な地域は福島第一原発から170km、任意移住地域は250kmにもおよび、東京都の1,300万人を含め4,000万人を超える人々が避難民になるという、恐怖のシナリオが想定された。

不幸中の幸いというべきか、4号機の燃料貯蔵プールは偶然、大量の水によって守られた。ふだんは無い水がそこに流れ込んできたからだ。

原子炉圧力容器の真上に「原子炉ウェル」という縦穴がある。ちょうど燃料貯蔵プールの隣だ。ふだん、このスペースに水は入っていない。

だが、定期点検中だった事故当時、「シュラウド」と呼ばれる隔壁の交換を水中で行う作業が遅れていたため、原子炉ウェルと隣のピットは大量の水で満たされたままだった。そして、そこから、水が隣の燃料貯蔵プールに流れ込んだのだ。

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ふだんは無い水がそこにあり、入るべきではないのに侵入した。おかげで、4号機プールの燃料は冷やされ、最悪の事態は免れたというわけだ。このめったにない偶然。「4号機の奇跡」と樋口氏は言う。

もう一つの「奇跡」は2号機で起きた。2号機はメルトダウンし、格納容器の中が水蒸気でいっぱいになり、圧力が大爆発寸前まで高まった。圧力を抜くためにベントという装置があるが、電源喪失で動かせない。放射能が高すぎて、人も近寄れない。

当時の福島第一原発所長、吉田昌郎氏は、格納容器内の圧力が設計基準の2倍をこえた3月15日の時点で、大爆発を覚悟した。のちに「東日本壊滅が脳裏に浮かんだ」と証言している。

ところが不思議なことに、そういう事態にはならなかった。水蒸気がどこからか抜けていたのだ。

「多分、格納容器の下のほうに弱いところがあったんでしょう。格納容器は本当に丈夫でなければいけない。だけど弱いところがあった。要するに欠陥機だったために、奇跡が起きたんです」

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「二つの奇跡」の話、知っている国民がどれだけいるだろうか。そして、原発の耐震設計基準は、大手住宅メーカーの耐震基準よりはるかに低いことを知っているだろうか。

福島第一原発事故では800ガルの揺れが外部電力の喪失を引き起こした。800ガルといえば先述したように震度6強クラスだ。その程度の地震は日本列島のどこで、いつなんどき起こるかしれない。

2000年以降、震度6強以上を記録した地震をあげてみよう。
鳥取県西部:6強
宮城県北部:6強
能登半島沖:6強
新潟県上中越沖:6強
岩手県内陸南部:6強
東北地方太平洋沖:7
長野県・新潟県県境付近:6強
静岡県東部:6強
宮城県沖:6強
熊本:7
北海道胆振東部:7
山形県沖:6強
これだけある。

ガルで表せば、もっとわかりやすい。大阪府北部地震は806ガル、熊本地震は1,740ガル、北海道胆振東部地震は1,796ガルを観測している。

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それに対して、原発の耐震設計基準はどうか。大飯原発は当初、405ガルだった。なぜか原発訴訟の判決直前になって、何も変わっていないにもかかわらず、700ガルに上がった。コンピューターシミュレーションで、そういう数値が出たと関電は主張した。

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樋口氏はため息まじりに言った。

原発は被害がでかいうえ、発生確率がものすごく高い。ふつうの地震でも原発の近くで起これば設計基準をこえてしまう。電力会社は400とか700ガルの耐震設計基準で良しとして、大飯原発の敷地に限っては700ガル以上の地震は来ませんと、強振動予測の地震学者を連れてきて言わせる。信用できないでしょ。“死に至る病を日本はかかえているんです」

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人の生命や生活のほうが、経済活動の自由より大切であると、日本国憲法を根拠に断定した根底には、「原発は被害がでかいうえ、発生確率がものすごく高い」という樋口氏の認識があった。

「3.11の後、原発を止めたのは私と大津地裁の山本善彦裁判長だけ。二人だけが原発の本当の危険性をわかっていた。ほかの人はわからなかった。それだけのことです」

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