線量記し、シートに包まれ…原発から避難したままの民具 via 朝日新聞

2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故で、地元・福島県双葉郡の文化財も避難を余儀なくされた。今は使われなくなった手動の農具やさまざまな動物の剝製(はくせい)、昆虫の標本など、地域の歴史の語り部ばかりだ。だが、8年半たっても、約80キロ離れた収蔵庫に留め置かれたまま帰還の日は見えてこない。「被災地の現実を忘れないで欲しい」。地元教育委員会の協力を得たアーティストが、帰れない被災地の文化財を東京で紹介しようと準備を進めている。

福島県白河市の県文化財センター白河館(愛称まほろん)。双葉町教委で文化財を担当する吉野高光(たかみつ)さん(59)が、映画監督で美術作家の藤井光(ひかる)さん(43)=東京都在住=らと一緒に訪れたのは10月10日のことだった。

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こうした品々の大半は白やピンクのシートにくるまれ、その姿をはっきり見ることはできない。各資料には、名称や搬出時の放射線量を記入した整理カードが付いている。震災翌年の8月から数回にわけて、文化庁や全国の歴史研究者らでつくる「文化財レスキュー」が、双葉町歴史民俗資料館から運び出した痕跡だ。いったん旧相馬女子高校(同県相馬市)へ移され、その後白河市のまほろんに運ばれた。

これらの文化財が帰還するめどは立っていない。双葉町は「特定復興再生拠点区域」を町の中心部に設け、除染やインフラ整備を進めている。22年春に避難指示が解除されるのを見越した施策で、資料館も「拠点区域」にあるものの、長期間放置された建物が傷むなどで、再開が見通せないためだ。

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藤井さんが出品を検討していた展覧会は、来年3~6月に東京都現代美術館東京都江東区)で開催予定の企画展「もつれるものたち」。戦争で略奪された美術品や都市開発に消えた自然などをテーマに、世界各地の現代美術家が出品する展覧会だ。2人は、展覧会の開催意図に意気投合し、まほろんに避難中の民具38点やコンテナ4箱分の化石、土器などを選び、それらを組み合わせて一連の美術作品として東京で展示することに決めた。

「さまざまな文化財が刻んできた長い歴史の連続の中から、現在の福島の現実を直視して欲しい」と藤井さん。吉野さんも「被災地では震災や原発事故が収束していない現実を忘れないで欲しい。歴史や民俗資料が長い避難生活の中で、住民の支えになることを感じてもらえたら」と話す。(編集委員・小滝ちひろ
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 双葉町など各地の文化財保護活動を紹介するシンポジウム「地域社会と文化財―身近にある文化財、それをまもり伝える意味」(国立文化財機構主催、朝日新聞社後援)が12月7日、東京・上野の東京国立博物館である。無料。吉野さんも報告する。詳しくは同機構文化財防災ネットワーク推進本部のホームページ(https://ch-drm.nich.go.jp/)。

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