文部科学省が全国の小中学校と高校に昨年配布した「放射線副読本」の最新版について、滋賀県の野洲市教育委員会が、福島第1原発事故の被災者の心情に配慮せず、安全性を強調していることを問題視し、回収を進めていることが分かった。改訂前に比べ、原発事故の記述よりも日常生活で受ける放射線量などの説明を優先した内容に、福島県からの避難者が憤りを表しているほか、専門家も「放射線被ばくのリスクは大したことがないと思わせる印象操作だ」と批判している。
副読本は小学生用と中高生用があり、前回改訂から約4年たったことから昨年10月に改訂された。放射線について科学的な知識を身に付け、理解を深める目的で全国の小学校に約700万部、中学・高校に約750万部が配られた。
第1章では放射線の人体への影響や、自然環境や医療機器から受ける放射線量などを解説。第2章は福島原発事故の被害や復興の現状、避難者へのいじめ事案などを取り上げている。改訂前は第1章で原発事故を説明し、第2章で日常的な放射線による影響などを記していたが、「正しい知識を身に付けることが先」(同省)と章立てを替えた。
野洲市では3月8日、市議会の質問で「副読本は、自然界のものと事故による放射線を同一視し、安全だという結論に導こうとしている」などと指摘を受け、市教委が内容を精査した上で同日中に回収を決めた。同11日付で保護者に「内容や取り扱いについて改めて協議した結果、記述された内容に課題があると判断しました」との文書を送り、回収への協力を求めた。
市教委は取材に対し、被災者の声が書かれていない▽廃炉作業など今後の課題を記述せず、安全性ばかり強調した内容になっている▽内容が高度なところがある-を理由に挙げる。 既に市内の小学校に2113部、中学校に314部を配布したが、各校の対応は▽全生徒児童に配布▽高学年児童にのみ配布▽活用方法を検討中で配布せず-に分かれていたという。
市教委は現在も回収中で、西村健教育長は「原発事故で今も4万人以上の避難者がいるにもかかわらず、副読本にはその人々の思いが抜け落ちている。一度回収してから、資料を補うなどの活用方法を検討したい」と話している。一方、文科省教育課程課は「副読本が全てではない。足りないことがあれば別の資料で補うなど各現場で工夫して使ってほしい」とする。