それでも米山前知事が進めた「原発事故3つの検証」は意味がある via ironna

立石雅昭(新潟大学名誉教授)
 新潟県知事の米山隆一氏は4月18日、金銭授受を伴う女性問題、いわゆる買春行為で辞意を表明。県議会にて全会一致で承認され、4月27日に辞職した。
 
 一昨年の10月16日投票の知事選挙で、米山氏は「東京電力による福島原発事故の検証がなされない限り、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働については議論しない」とする泉田裕彦元知事の路線の継承を掲げ、第20代県知事に当選したが、その就任期間はわずか1年半という短命に終わってしまった。
 
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それらの施策の中でも原発に対する県の施策、とりわけ「福島原発事故の3つの検証」は、泉田元知事の路線を引き継ぎ、深化させたものであり、唯一具体化に向かって動き出した課題であった。
 
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米山氏は、福島原発事故の検証を続けてきた「技術委員会」に加えて、新たに「原発事故による健康と生活への影響に関する検証委員会(健康・生活委員会)」と「原子力災害時の避難方法に関する検証委員会(避難委員会)」を設置するとともに、これら3つの委員会を総括する委員会として「原発事故に関する検証総括委員会(検証総括委員会)」を立ち上げた(表1)。
 
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福島原発事故の調査、検証は東京電力、政府、国会、独立検証委で行われ、それぞれ2012年に報告書がまとめられた。これらの報告はそれぞれに有意な報告であり、生かされるべき提言も数多くある。
 
 しかし、これらの報告やその後の規制委員会における議論で決定的に欠けていることがある。それは、福島原発の事故に際して、政府や電力事業者の危機管理体制が機能せず、事故の情報や避難指示が十分に届かない中で、被災自治体が大きな混乱に陥り、住民を被ばくにさらすに至った経緯の分析がほとんど行われていないことだ。
 
 原発事故による放射能の拡散・汚染から住民の命と健康を守る課題は、原発が立地する県や自治体の最も大きな責務である。福島原発事故について、原発立地ならびにその周辺自治体が事前に、また震災発生後に具体的にどのように対応するべきであったのか、何ら検証も行われず、教訓も整理されていないのが現実である。
 
 米山氏が進めてきた「福島原発事故の3つの検証」は、こうした検証の不十分さを補うものだ。とりわけ、健康・生活委員会ならびに避難委員会の検証は、県民の命や暮らしと深い関わりを持つ極めて重要なテーマであるが、日本では初めて本格的に行われる検証である。
 
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2018年2月16日に、第1回検証総括委員会が開催された。委員長の名古屋大学名誉教授・池内了氏は、この委員会の役割として、技術、健康・生活、避難の3つの委員会での議論内容をまとめるとともに、各委員会での議論を越えた境界領域についても検証することをあげた。
 
 同時に原発、あるいは原発事故は、必ずしも科学的に全てが解明されるものではないとの立場から、そうした側面でも議論を深めていきたい意向を述べられた。
 
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避難委員会では、時間的制約もあり、議論の対象は事故発災時に避難するまでに絞られているが、放射性安全の原則である「合理的に達成可能な限り低く」を踏まえた避難方法を検討している。複合災害の視点や住民が行政の指示通り動かないという現実を踏まえた対応等も課題となっている旨、報告された。
 
 また、柏崎刈羽原発の安全性を担保するには、原子力規制委員会の規制基準適合判断だけでは不十分だ。東京電力の隠蔽(いんぺい)体質の払拭、使用済み燃料の保管体制、燃料プールの構造、事故進展状況を把握する水位・圧力計などの計装装置の改良など、幾多の課題が残されている。
 
 検証委員会での福島原発事故の検証を踏まえた柏崎刈羽原発の備え、とりわけ、事故が発生した際に、県民から放射能被ばくを防ぐ実効性ある方法を確立することが重要だ。
 
 以上の「検証」が持つ県民の命と暮らしに関わる重要性を鑑みれば、原子力規制委員会が東京電力柏崎刈羽原子力発電所の6・7号機再稼働を実質的に容認する、規制基準に適合判断を下した今、米山氏の辞任がこの検証作業を停滞、もしくは後退させることは許されない。
 
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