「被曝前提では住民理解得られない」
新潟県の泉田裕彦知事と、原子力規制委員会の田中俊一委員長の面談が初めて実現した。泉田氏といえば、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所がある地元の県知事。福島第1原発事故後、「事故原因の検証・総括がないままでの柏崎刈羽原発の再稼働は論外」との立場を崩さず、再稼働を急ぐ東電の対応を批判してきた。また、柏崎刈羽に限らず、住民の防災・避難対策が不十分なままでの原発再稼働はありえないと主張し、規制委に対しても住民の安全確保に対する考え方をただすため、以前から田中委員長に面談を求めていた。
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泉田知事が特に強く要求したのが、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を活用した、実効性ある住民避難の仕組みだ。規制委が今年4月に改定した原子力災害対策指針では、原発事故時の住民の避難対策はSPEEDIによる放射線量の予測値ではなく、モニタリングポストの実測値を使用する方針が定められた。泉田氏は「被爆を前提に避難指示を出すことになり、住民理解を得ることは困難」と批判した。
また同指針では、甲状腺の被爆を抑える安定ヨウ素剤の事前配布は原発5km圏(PAZ)の住民に限定され、5~30km圏(UPZ)では緊急事態発生後にヨウ素剤を配布することになっている。泉田氏は、緊急事態発生から数時間以内にUPZの全住民(新潟県の場合は約40万人)に配布することは極めて難しいと主張。放射線量の実測値が上がってから配るようでは「被曝してから服用」することになり、住民の安全は守れないと訴えた。
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さらに現行の労働安全衛生法では、労働災害の急迫した危険があるときは労働者を作業場から退避させる義務が事業者にある。そのため、緊急時の高線量下において、ヨウ素剤をUPZの住民に配布したり、地震で陥没した道路を復旧したり、避難住民を搬送するバス運転手を確保したりする災害対応が難しい法体系になっている。泉田氏はこうした法体系の整理に向け、規制委が国への勧告権を行使するよう求めた。
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面談後、泉田氏は記者団の取材に応じた。初会談の印象について泉田氏は、「現行の法体系に矛盾が多々あることを私は4年前から指摘しているが、ようやく面談がかなって委員長に認識してもらえたのは一歩前進」と語り、「今後、内閣府とも協力して検討を進めてほしい」と期待を示した。
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また、柏崎刈羽原発の再稼働の条件について問われると、「福島事故を二度と繰り返さないためには、事故の検証・総括が必要。津波についても15メートル級の津波が予測できたのに、なぜ対策がとれなかったかという総括も社内処分も行われていない。こうした状況では、再稼働について手続きも含めて議論する段階にない」と、従来と変わらぬ考えを表明した。[…]
泉田氏はこれまで田中委員長について、「原発の性能基準の審査ばかりやっていて、住民の安全を守る使命感が感じられない」などと公然と批判してきた。今回は知事会の代表としての面会要請だけに、田中委員長としても断るわけにはいかなかったのだろう。田中氏は面談2日後の定例会見で感想を聞かれ、「私のほうは特別ないが、知事としては言いたいことをおっしゃって、ご満足いただけたのではないか」と、あたかもガス抜きさせたかのような皮肉交じりの発言もしている。だが今回の面談では意見が平行線に終始した問題も多く、無論、泉田氏は満足していないはずだ。
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