荒川医オーラル・ヒストリー 2013年3月30日 via 日本美術オーラルヒストリーアーカイブ

荒川医オーラル・ヒストリー 2013年3月30日
ブルックリン、荒川医自宅にて
インタヴュアー:富井玲子、池上裕子
書き起こし:向井晃子
公開日:2013年11月15日
更新日:2013年12月3日

荒川医(あらかわ・えい 1977年~)
美術家
福島県いわき市出身。1998年に渡米、2000年にニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツに入学、ファイン・アート学科にて現代美術を学 び、パフォーマンス・アートを中心に活動を展開する。聞き手に大学時代から親交のある富井玲子氏を迎え、渡米前のピースボートでの経験、渡米後にクラブイ ベントをオーガナイズした経験、在学中から数々のパフォーマンスを内外で企画しニューヨークのアーティストとして活躍を始めた経緯、最近の作品などについ て語っていただいた。作品に日本美術史の文脈を持ち込むアイデアや、パフォーマンスとオブジェ制作の両方で生計を立てていくことについても独自の意見を述 べている。

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荒川:そうですね…… 最近ね、アムステルダムで、わりと簡単な気持ちでパフォーマンスをやったんですね(注:Japan Syndrome-Amsterdam versionのイベントの一部、《Yum Yum Vibe & Lost Love》、Studium Generale Rietveld Academie, Amsterdam, 2013)。それは、福島県産の切り干し大根をスープに入れてね、そのスープを観客に渡してね。

富井:(笑)。

荒川:まあ、食べるかどうか決めてくれ、みたいなかんじだったんですけど、アクティヴィストの連中が結構いて、すごく反対されたっていうか、 僕のステージ・プレゼンスみたいなのがすごく批判を受けたんですね。僕のプレゼンスがすごくフレンドリーで、福島の食べものを食べてもいいっていうのを ノーマライズするっていうのが問題だ、みたいなかんじでね。

富井:そのアクティヴィストの人っていうのは、アムステルダムの人、日本人じゃなくって?

荒川:日本人もいたんですけど、アメリカをベースにしてる日本人と、ロンドンベースのアーティストで。すごく批判を受けたんですけど、それはよかったのか悪かったのか、ちょっと分からないですね。

池上:パフォーマンスの出来として?

荒川:そうそう。

富井:だって普通、君自身のプレゼンスはそれほど強調されないパフォーマンスが多いわけですよね。このあいだのアート・フォーラムの記事でも 書かれてるし、全体的には私もそうなんじゃないかなと思うけど(注:Cathrine Wood, “Out of Body,” Artforum 51, no. 6 (February 2013), pp. 172–181)。さっき言ってたしょっぱいお水を飲ませてっていうのは、君がその人たちとの関係をもとにしてやるわけだけど、切り干し大根のスープを食 べてもらうっていうのも、ちょっとそれに似たところがあるんじゃないかなと思ってね。

荒川:ああ、そうかもしれないですね。スープは僕が作ってたんじゃなくて、ステファン・チェレプニン(Stefan Tcherepnin)とハナ・トーンナッド(Hanna Törnudd)っていう友人が作ってたんですけど。でも確かに、ケニー・スチャクターでやったときに、僕一人に視点があたってしまうというのは、あまり 好ましくないっていうか、できれば黒子的な役割で、しかも同時に現代美術の共通認識みたいなのに関わるみたいな、荒川医っていうソロの名前と、複数の名前 で自己を曖昧にしてくみたいな作業を同時にするみたいなのは興味がありますね。

池上:そういう構造の方が、なんとなくうまくいったのが多いかんじですか。

荒川:そう。その方がフリーというか、あまりキャリア・プレッシャーみたいなものを感じないですね。

富井:自分の名前でやると、キャリア・プレッシャーを感じます?

荒川:いやその、自分一人で何かやるっていうのは、パフォーマンスのタイミング的なものがあるんですね。たまにソロの個展をやってくれって言われるときがあるんですけど、それをやった方がいいときとやらない方がいいときみたいなのがあって……

富井:いま、福島の話がでたけども、もうひとつグループで言うと、ユナイテッド・ブラザーズ(UNITED BROTHERS)っていうのがあるでしょ、あれはご自分のお兄さんと直接関係したグルーピングの発想ですよね、最初は。

荒川:そうですね。原発の問題があったときに、ニューヨークでは僕、アートのインサイダーだと思うんですけど、ニューヨークでアートをやって る自分と福島の状況が乖離していて、それでウチの兄を誘ったというか。本人はアートのことはまったく知らなかったけど、刺激的なことを探してるんで。この グループを構成したのは、ニューヨークと福島を自分の中で同じ地平線にしたい、みたいなのがあって、それで始めたんです。ユナイテッド・ブラザーズは元々 兄の税理関係のための会社の名前で、それをそのまま使ったんですね。

富井:そうだったの。あの、日焼けサロンのお店の名前ね?

荒川:いや。日焼けサロンを経営する会社の名前。

富井:日焼けサロンを使ったパフォーマンスもしてますよね。

荒川:そう。してます。

池上:それはどういうものですか。

荒川:ユナイテッド・ブラザーズをやるときは、ドイツのダス・インスティテュート(DAS INSTITUT)っていうデュオ作家とコラボレーションするのが常なんですけど。日本人の作家だけで福島のサブジェクトで何かやるっていうよりは、日本 人以外もいれて外部の視点みたいなのもうまく取り入れてやりたいんですけど。そのときは、ダス・インスティテュートと一緒に日焼けマシーンを原発のモチー フとして捉えて、それを使ってインスタレーションを作ったりするんですけど。今ちょっと迷っているのが、今までのユナイテッド・ブラザーズのアウトプット が、結構フランボワイアント(flamboyant、派手)っていうか、わりとね、シリアスな風じゃないんですね。

富井:グリーン・ナフタリ(Greene Naftali Gallery)で見せてたビデオも、わりとフランボワイアントな感じよね。

荒川:そうですね。今のところね、ウチの兄の個性で、フランボワイアントな福島のイメージみたいなのが出てきてるんですけど、今後続けていくときに、この前のアクティヴィストの批判もちょっと考えてて、このままでいいのかなみたいなのもありますけどね。

池上:アクティヴィストの人達の批判のポイントが、私はまだちょっとピンときていないんですけど。

荒井:脱原発の人にすると、僕らが何をしようとしているのかよく分からないみたいなのがあって……

富井:福島でとれた、あるいは作った食べ物を食べますよ、安全ですよという立場もありますよね、日本の中で見てると。

荒川:安全だって言ってたっていうよりかは、現状どういう選択肢を持って生活してるのかっていうのと、あと、地元のいわき踊りっていうのを、 パフォーマンスに取り入れたりしてるんですけど。その狙いがまだ、すごくはっきりしてるっていう訳じゃないんですね。僕の家族は被害もそんな大きいわけ じゃないし。ただね、福島の中に居るけれど日常的にはあんまり危機感が感じられてないっていうある現実が僕としてはすごく重要で、それをなんとかプロダク ティブにパフォーマンスとしてできないかなと思っているんですけど。だからチャリティー的なイベントとは違ってきちゃってて。そういう中で、日本の中では どっちかって言うと社会的に役割がはっきりした原発とか震災のアートがどんどん出てきてて、日本の外では、原発そのものは忘れさられていくか、それか逆に どっちかって言うとすごく怖いものとして取り上げられるっていうのがあって……

富井:まあ、反原発みたいな。

荒川:そうそう、反原発でも状況をすごくペシミスティックなだけじゃくて、大げさにに見る見方があって、その両方がちょっとね、どうにかねぇ…… うまく判定できないでいる中で、今後どうしようかっていうのがあるんですね。

池上:じゃあその…… 何て言うんだろう、医くんがやったことの、そういう問題をリプリゼントしてるんだけど、どういう立場でリプリゼントし てるのかが曖昧な訳ですよね。その曖昧さが、アクティヴィストの人達には批判しないといけないものに見えちゃったっていうことなのかな。

荒川:そうかもしれない。ていうか、それを批判しないことには今度自分たちの立場が危うい、みたいな。

池上:どっちにも読めることをやったわけですよね。安全かも知れないし、危険かもしれないしっていう。彼らはやっぱり、その立場を取れないってことですよね。

荒川:もしかしたら、ユナイテッド・ブラザーズは、そういうのをもうちょっと、エステティックス(aesthetics、美学)の中でどんど ん創造していって、原発に対するアートが単純にコミュニケーションとして消費されないようなやり方、みたいなのができたらいいんですけどね。それはまだ続 いてるんですけど。スパリゾート・ハワイアンズっていうのが、いわきにあるんですけど。

池上:あのフラ・ガールで有名なとこだよね。

富井:フラダンス?

荒川:1960年代に、エネルギーが変わっていくときに、石炭のビジネスを今度温泉地に変えてフラ・ガールを作ろうみたいなことがあって。その人達とちょっとコラボレーションというか、コミュニケーションをしたりしてて、今。

池上:それは面白そうですね。

荒川:そう。で、こんな本とかあるんですけど。

富井:あ、なるほど。フラ(笑)。

荒川:うーん…… でも、インタヴューこんな感じでいいんですか(笑)。

富井:全然構わない(笑)。

池上:いいです。今のお話、とっても面白かった。

 

全文は 荒川医オーラル・ヒストリー 2013年3月30日

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