チェルノブイリと福島の原発事故処理にそれぞれ従事したウクライナ人と日本人が4月、ドイツ北部にある7つの学校の特別授業で過酷な労働体験を語った。2人は14歳以上の生徒や教師ら約800人に対して、作業現場のずさんな被ばく管理や健康上の問題、十分な治療の保証が受けられない現状などを訴えた。(ドイツ・キール=川崎陽子)
特別授業は、IBB(国際教育交流)による「欧州アクション・ウイーク:チェルノブイリと福島後の未来のために」の一環で、7年目の今年は欧州約150カ所で開催された。
ドイツ国内40の主催者の一つ、ハインリヒ・ベル基金のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州支部は、原発事故を体験した証言者を毎年、旧ソビエト連邦の国々や日本から招聘してきた。
今年は、ウクライナ人のオレグ・ゲラシュチェンコさん(68)と日本人の桐島瞬さん(52)が、同州における原発事故の大惨事を語り継ぐ学校行事や市民団体、政治団体で、体験談を語った。
■2カ月公表されなかった「メルトダウン」
軍の消防士だったゲラシュチェンコさんは、1986年6月末から1カ月間、チェルノブイリ原発から20キロ圏内の立入禁止区域で事故処理に従事した。任務に就く前には10日間、10人のリーダーの1人としてチェルノブイリと同じ型の原発内で、内部構造を詳しく知るための講習を受けた。
職業上、比較的早く情報を得られたゲラシュチェンコさんは、「原発事故の4日後に初めて報道があったが、内容は嘘だった」と語った。
ジャーナリストの桐島さんが、東電福島第一原発で働くことを決意した理由は、自分の目で現場を確かめて真実を報道したかったからだ。桐島さんは原発事故の約2週間後、誰もいないオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)で「メルトダウン、3月12日」と書かれたメモを見つけた。だが、政府が公表したのは2カ月も後で、国民の間で政府への不信感が高まっていた。
■暑さと被ばくとの闘い
(略)
ゲラシュチェンコさんは、長さ800mのタービン建屋で、2〜3分おきに入れ替わる溶接作業、現場で発生した火災の消火、建屋や機械の除染など、あらゆる作業を行った。
「線量計を身に付けていたが、作業後に秘密情報機関に渡さねばならず、被ばく量はすぐには知らされなかった。被ばく上限は通常50ミリシーベルト(※1)、私たちは250ミリシーベルトだった。だが十分な防護ができなかった人たちは、それ以上被ばくした」(ゲラシュチェンコさん)
桐島さんは、2012年の半年間、防護服を着て体感温度が摂氏50度を超える状態で作業をしながら、マスク内にたまった汗で呼吸がしづらくなるなど、暑さと被ばくとの闘いだったと語った。
「例えば汚染水タンクの表面は、普通の人が60年間で浴びるほどの線量だった。現場には、もっとはるかに線量が高い場所がたくさんあった。移動用の車の座席(毎時0.35ミリシーベルト)や、マスクをはずしてくつろげる唯一の休憩場所(毎時0.014ミリシーベルト)も汚染されていた。私は、4時間の労働で皆さんが1年間に浴びて良い1ミリシーベルトを超える被ばくをした」(桐島さん)
■救済処置の欠如も
7カ所の授業で、必ず生徒が2人に尋ねたことが一つだけあった。「健康被害はあったか」という質問だ。
ゲラシュチェンコさんは、チェルノブイリから戻ったあと白血球が減少し免疫力が低下していることが分かり、小さい脳梗塞、視力低下、皮膚のびらん、硬変症、性機能障害を経験した。
現在は、高血圧、糖尿病、皮膚ガン、肝臓疾患があり、頭の中で常に音が鳴り続けているというゲラシュチェンコさんは、「頭痛もひどいが、痛みに耐えきれずに自殺した人ほどではない」と付け加えた。
毎晩スポーツジムに通って、できるだけ放射性物質を体外に出すように努めたと語った桐島さんは、生徒からの質問にこう答えた。
「福島から東京に戻ったあと、3カ月間毎日のように鼻血が出て、ひどくだるかった。避難した人たちに取材したときも、福島から離れてから鼻血が出たという話をよく聞いた。低線量被ばくの症状といわれ、イラク戦争後の米国兵士が劣化ウラン弾で同じような症状が出たという報告がある。甲状腺検査で結節が見つかったので、定期的な検診が必要と言われた」
しかし、将来健康被害が起きた際に政府からの支援が保証されているのは、2011年12月末までに働いた人たちだけだと、桐島さん。
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