今年2月初めに開かれた自民党の資源・エネルギー戦略調査会では、原発再稼働の必要性を指摘する声が相次いだという。しかし放射性 廃棄物問題が解決しないまま再稼働すれば、いずれ原発は止まる。昨年9月11日、日本学術会議は、高レベル放射性廃棄物に関する文書を原子力委員会に提出 し、「原子力政策に関する大局的方針についての国民的合意が欠如したまま、最終処分地選定という個別的な問題が先行してきた」と指摘。これまでの高レベル 放射性廃棄物の地層処分方針を抜本的に問い直す、「総量管理」と「暫定保管」の二本柱を提起した。詳細について検討委員会の一人である舩橋晴俊さんに話を 聞いた。(聞き手=編集部・温井)
プロフィール▼ふなばし・はるとし
1948年生まれ。法政大学社会学部教授。環境社会学、社会計画論、組織社会学。日本学術会議の中に設置された「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討 委員会」の一員として2年弱の間、審議に参加。共著に、『核燃料サイクル施設の社会学-青森県六ヶ所村』(有斐閣)、『規範理論の探究と公共圏の可能性』 (法政大学出版局)、訳書に『核廃棄物と熟議民主主義-倫理的政策分析の可能性』(新泉社)など多数。(抜粋)
まず一般論としては、科学によって答えられる問題と答えられない問題があります。原理的に答えられるものと、答えられないものがあるということです。
科学の射程を超えるのは、倫理的、あるいは価値判断がからむ問題です。この問題については、科学者の判断が一般市民の判断に比べて特に優れているという根拠はありません。それに対して将来予測も含めた事実認識については、原理的には科学が回答可能な問題です。
つまり科学が扱える問題は何かという自覚がまず必要で、その上で、原理的に科学が答えられる問題であっても、現在の科学者たちの知識ではまだ答えが出せない問題が多々あるのです。
(略)
◆保管地の選定もかなり困難です
原子力の問題が行き詰っている構造の一つは、倫理性の見地からの政策選択の努力がなさすぎることです。これは受益圏と受苦圏の分離、あるいは環境負荷の外部転嫁とも言えます。
つまり原発のメリットを求める人々がその真の費用を引き受けず、よその人々に押し付ける構造。だから負の帰結に目をつぶり、一面的なメリットだけをひたすら追求し、無制限に原子力に依存していくわけです。
これは言い換えると倫理的な二重基準、ダブルスタンダードです。たとえば巨大な電力消費地である東京圏は、メリットを享受しながら原発立地の危険性を福島や新潟に押し付けてきた。
また、福島や新潟も原発立地による雇用や財政的メリットを最大限受け取りながら、放射性廃棄物は青森に押し付けてきた。こうしたダブルスタンダードの連鎖構造があり、その延長線上に最終処分地の建設があるわけです。
二重基準の最大の問題は公平性がない、不公平だということ。この不公平は、際限のない欲望の無限拡大と、他方で随伴する負の帰結の無限拡大を生んでいる。それを解決するには受益圏と受苦圏を重ねるべきなのです。
インタビューの一部は溜まり続ける高レベル放射性廃棄物 原子力政策全般への国民的合意が問われている 法政大学社会学部教授・舩橋晴俊さん