(抜粋)
「これが最後の仕事」と称して、菊次郎は2011年9月の反原発集会、さらには福島の被災地へと向かう。90歳となる彼のモノクロ写真は、今なお見 る者の網膜に突き刺さる。被災地の瓦礫の山が、広島の記憶と繋がっていく。撮影旅行を終えた菊次郎は山口の自宅へ向かう帰路、途中下車する。自分をこの世 界に導いてくれた恩人に逢うためだ。1967年に亡くなった中村杉松さんの墓の前で、菊次郎は嗚咽する。中村さんのお陰でプロのカメラマンになることはで きたが、本当に中村さんの“仇”を討つことはできたのかと自問する。
最後にもうひとつ、福島菊次郎が本作で語っている印象的な言葉を紹介したい。「カメラの中立性なんてない。中立的な立ち場でしか撮らないから、い い写真もいいドキュメントもできない。それは、撮る人にとっては楽なわけ。危ないところなんかに入らないし。でも、それでは報道はできない」。
権力者の噓を見破り、それを暴け。そして、みんなに知らせろ。福島菊次郎のメッセージに応えられる人間は、この国にどれだけいるだろうか。
(文=長野辰次)『ニッポンの噓 報道写真家・福島菊次郎90歳』
監督/長谷川三郎 撮影/山崎裕 プロデューサー/橋本佳子、山崎裕 朗読/大杉蓮 配給/ビターズ・エンド 8月4日(土)より銀座シネパトス、新宿 K’s cinema、広島八丁座ほか全国順次ロードショー ※8月4日は銀座シネパトスにて田原総一郎と堤未果とのトークショーあり(12:15の回上映終了 後)。
<http://www.bitters.co.jp/nipponnouso>
(c)2012『ニッポンの噓 報道写真家・福島菊次郎90歳』製作委員会