東京電力福島第1原発の北4キロ。海沿いに全面ガラス張りの真新しい建物がある。東日本大震災と原発事故の記録と教訓を伝える「東日本大震災・原子力災害伝承館」(福島県双葉町、3階建て延べ約5200平方メートル)。整備費を含めた総事業費53億円は国費で賄われ、県が2020年9月にオープンさせた。だが、半年を待たずに異例の展示替えが始まった。
「教訓が分からなかった」「何を伝えたいのかよく分からない」
ロビーのノートには、来館者の厳しい声が書き込まれている。伝承館によると、2月末までに訪れたのは約3万7000人。修学旅行生ら県外客からは「事故の様子がよく分かった」とおおむね好評だが、福島の事情を知る県内客や被災者からは批判が多かった。
伝承館を運営するのは、県が設立した公益財団法人。展示内容を決めたのは県だ。不満が噴出した理由は、国会事故調査委員会などが「人災」と結論づけた原発事故について、国や東電、県の責任に関する言及がほぼなかったからだ。例えば放射性物質の拡散方向を予測する「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」について、データが政府から届きながら県が削除して市町村に伝えず、放射線量の高い方向へ住民を避難誘導した自治体があることにも触れなかった。「SPEEDIの取り扱いを明確に定めたものはなく、情報を共有できませんでした」と説明するだけだった。
やまぬ批判を受け、県は2日、年度内に約30カ所で資料の追加や展示パネルの差し替えをすると発表。翌日には追加した展示を始め、SPEEDIの不手際も政府事故調の報告を基に明らかにしている。通常、博物館などの常設展は数年維持されるため、変更は珍しい措置だ。
(略)
県幹部らへの取材を進めると、「復興五輪」を掲げる東京オリンピック・パラリンピックが予定されていた20年中の開館を急ぐなか、当たり障りのない展示に落ち着いた実態が浮かんだ。【竹内良和、高橋隆輔】