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控訴期限の同日、加藤勝信厚生労働相は、報道陣に「(判決は)過去の最高裁判断と異なり、十分な科学的知見に基づいていない」と控訴した理由を説明。同省担当者は「地裁判決は、黒い雨を浴びたと本人がいい、特定の疾病の二つの要素があれば被爆者と認定されかねない」と指摘。厚労省は判決が確定すれば救済対象が大きく膨らみかねないと懸念した。
黒い雨の援護行政を巡っては、降雨地域のうち「大雨地域」に限り援護対象とする。だが被爆者援護法上の被爆者とは認めず、特定疾病を発症すれば、被爆者と認めて手帳を交付。医療費の自己負担分をなくすなどしてきた。
他方、被告の広島市と広島県は国から手帳交付事務を受託しているものの援護行政に裁量はないとされ、国に援護対象の区域拡大を訴えてきた。判決後も国に控訴の断念を申し入れたが、国の控訴要請を受け入れるのと引き換えに「大雨地域」のみを援護対象とする現在の線引きを再検証することを引き出した。
市や県が求める援護区域の拡大を巡っては、2012年、市などの要望を受けた国の専門家検討会が援護区域外の放射線による身体的影響を「科学的判断は困難」として拡大を見送った経緯がある。
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一方、広島市の松井一実市長は同日会見し「勝訴原告の気持ちを思うと控訴は毒杯を飲む心境」、ある市幹部は「原告84人だけでなく(黒い雨を浴びた)みんなを救うために折り合いを付けた」とした。市によれば、援護を「大雨地域」に限る線引きが拡大された場合、新たに推計で数千人規模が援護対象に含まれる可能性があるという。
松井市長はまた、黒い雨を浴びたと訴える人の高齢化などを理由に「科学的見地より『政治決断』を」と繰り返し求め、広島県の湯崎英彦知事も同日、報道陣に「大臣、総理が拡大も視野に検討と言っている。結果として拡大しなかったというのは政治的にありえない」とした。(石川春菜、比嘉展玖)