帰還困難区域の解除 「除染なしでも」と言えない理由 via 朝日新聞

 東京電力福島第一原発の周辺に残る帰還困難区域除染せずに解除する新たな方針について、政府の原子力被災者生活支援チームは1日、原子力規制委員会で検討内容を説明した。しかし、支援チームは「除染が不要」という核心について、まるで既成概念かのように説明を省いた。背景には何があるのか。

土地利用のための解除を追加

 政府の委員会での説明によると、これまでの避難指示解除の目的は「住民の帰還・居住」だったが、今後は居住を除く「土地活用」のための解除方式を加えるという。

 具体的には、これまでは①放射線量が年20ミリシーベルト以下になる②十分な除染とインフラ整備をする③地元と十分協議する、の3要件をすべて満たして解除してきた。追加する新方式では、①と③は採用しながら、人が住まないことが想定される場所について、地元が土地活用を要望していれば、「線量低減措置」を講じて解除するという。

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規制委委員長「除染要件 科学的でない」

 逆に、規制委側が支援チームの意をくみ、「除染なしの解除」を前提に意見を述べた。事前に政府の新方針について報道があったためと見られる。

 伴信彦委員は「除染は放射線を防護する手段にすぎないのに、目的と化してしまった」、更田豊志委員長は「除染を(解除の)要件とするのは科学的とは言えない」と発言。線量が自然に年20ミリに以下に下がっていれば、除染は必要ないとの考えを支持した。

 石渡明委員は「(帰還困難区域の)放射線量が下がったといっても普通の土地の10倍高い。表面の放射性物質を取り除く努力はするべきだ」と、除染を不要としたい支援チームの考えにクギを刺した。

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発端は飯舘村

 たしかに今回の「除染なし解除」の発端は、帰還困難区域を抱える飯舘村が2月に要望したことだった。ただ、村の要望に乗じる形で、政府・与党は除染不要を一般的な解除要件に組み込もうとしているわけだ。

 この動きが6月に報道されると、帰還困難区域を抱える福島県の町村長らが神経をとがらせるようになった。それまで「(解除に)除染はこだわらない」と主張してきた飯舘村だけの問題ではなく、「徹底除染」を求めている自分たちの町村も、新たな解除方式の対象になると分かったためだ。

 政府は地元の要望がなければ新方針を適用するつもりはない。従来通りの解除を望めば、除染は実施される。だが、政府が地元に説明しても信用されない。それが原発事故以来の、国と地元との常だ。

 第一原発の北西にある浪江町では町議会が6月18日、除染なし解除の方針撤回を求める意見書を採択した。新方針のきっかけを作った飯舘村はいま、足並みを乱したと周りの自治体から陰口をたたかれている。

なぜ除染はいらないのか

 支援チームがあえて「除染不要」と明言しなかったのは、そんな地元の空気を察知してのことだった。なにせ「支援チーム」とは名ばかりで、実態は経済産業省の出向組だ。いわば原発事故を防げなかった責任者側であり、被害者の地元の動向には気を使う。直接的な表現で地元に波風を立てたくないという心理が働く。

 ところが、この配慮によって、「なぜ除染は要らないのか?」という大きな疑問が残ったままになる。「飯舘村の要望に応えるため」(支援チーム)では説明になっていない。

 原発事故が起きてから、除染は「福島復興の一丁目一番地」(前知事の佐藤雄平氏)の事業だった。これまで3兆円が投じられた。自然減衰で年20ミリを下回った地域でも、これまで除染は実施されてきた。

 それが9年たつと、なぜ不要になるのか。除染しても住民は2割弱しか戻っていないという諦めのせいか。費用との兼ね合いか。

 除染は「国の責務」と法律で定められている。事業を縮小させるなら、きちんと説明する責任がある。飯舘村の要望を盾に、説明を省略することは許されない。(編集委員・大月規義

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