ここから本文 【社会】 <ふくしまの10年・お先に花を咲かせましょう> (7)答えの出ない問いがあるvia東京新聞

山を削れば放射線量は減るかもしれないが、もともとの地形や自然は失われる。再生エネルギーの象徴ともいえるソーラーパネルが並ぶ光景は、地元の人々がもとの暮らしを放棄した場所でもある。

 原発事故後、五年間住むことのできなかった南相馬市小高区で人々に取材していると、現実の複雑さをたびたびかみしめることになった。賠償金を巡る中傷など人の心に潜む闇についても、考え込んでしまう。

 そういう時、小高の取材の前に話を聞いた日本総研シニアスペシャリストの井上岳一さんの言葉を思い出した。「答えの出ない問いに性急に結論を出さずに向き合い続けることの大切さを、僕は小高で学びました」

 井上さんは二〇一三年から月一回、小高に通った。日中の立ち入りはできるようになっていたので、地元のNPOとともに、避難している人々が戻って語らう場を設けた。父親も祖父も東京電力で働いていたこともあり、「福島のために何かしたい」という思いが強かった。

 最初の数カ月、うちひしがれた人々の口からは愚痴しか出てこなかった。一緒にご飯を食べながら話し合いを続けるうち、かつて地域で盛んだった養蚕をやってみようという話が出てきた。一六年に避難指示が解除された後、NPOが中心となって養蚕と絹織物を続けている。

 井上さんは南相馬市の復興アドバイザーになった。熊本県水俣市を訪れた際、水俣病とその後の裁判でできた地域の亀裂を修復するための「もやい直し」事業を、半世紀後に行政が行っていることに衝撃を受けた。「人災は傷を癒やしていくのに時間がかかります。福島は放射能という、大きな問いもある。福島が突きつける問題から私たちは目を背けてはいけない」

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