高速実証炉断念。「原発大国」フランスは曲がり角 via 論座

原発に思い入れのないマクロン政権。日本と共同研究中の「アストリッド計画」を放棄
山口 昌子

「原発大国」(58基)のフランスが、日本と共同研究中だった高速実証炉「アストリッド(ASTRID)」計画を経費高騰を理由に放棄した。建設中の第3世代の原子炉「欧州加圧水型原子炉(EPR)を「優先する」(ボルヌ環境相)というが、そのEPRにしても完成のメドは依然、たっていない。先に「夢の原子炉」と謳(うた)ってきた高速増殖炉「スーパーフェニックス」を断念しているフランス。「政治的支援の不在」も指摘されるマクロン政権の方針は不透明さを増す一方だ。

フランス原子力庁(CEA)は8月30日、声明を発表してASTRID計画の放棄を確認。「現在のエネルギー状況下では、第4世代の原子炉の産業的発展は今世紀の後半前には実施しない」と述べ、計画再開は少なくとも2050年以降と表明した。『ルモンド』が同日、「ASTRID計画放棄の方針」「25人で構成の調整担当者もすでに解散された」と報じたからだ。

ASTRID計画の開始は2006年1月、シラク大統領の時代だ。大統領の指令でCEAが“第4世代”の高速炉として2020年の稼働を目指して研究を開始。サルコジ政権(07~12年)でも継承された。

サルコジは09年12月に、「フランスは10億ユーロを核開発、特に“第4世代の原子炉”のために計上する」と明言。10年には「未来への投資」として、ASTRID計画の「コンセプトの研究」に6億5160万ユーロの予算を計上した。

社会党出身のオランド大統領(2012~17年)も計画を継承し、着任直後の12年6月には、CEAがフランス南部ガール県の核施設内での建設に向けて、仏建設大手ブイグをはじめ、原発大手アレバ、仏電力公社(EDF)、ロールスロイス・パワー・エンジニアリングなどと国際チームを形成、約500人が計画に経済的、技術的に関与した。

安倍首相は2014年5月5日のエリゼ宮(仏大統領府)での日仏首脳会談で、「安全性の高い新型原子炉ASTRIDを含む高速炉の技術開発協力に関する取り決め」で合意し、オランドと共に署名した。フランス政府はこの時、日本政府に対し、「もんじゅ」(当時は事故続きで無期限停止中、2016年12月に廃炉が決定)でASTRIDの可燃性燃料のテストをするために、「もんじゅ」の再起動を要請したという(日本外交筋)。

フランス政府は16年10月には日本政府に対し、ASTRIDの経費分担も要請した。当時の総経費の予測は50億ユーロだった。日本は「経済成長においてはイノベーションが重要である」という「日仏合意」のもと、体よく巨額の負担金を課せられるところだったが、計画の放棄で助かったわけだ。

”金食い虫の計画”

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15年には、日本における福島の原発事故や環境重視の世界的趨勢の中でその「安全性」が問題になり、仏放射線防護原子力安全研究所(IRSN)による検査を実施するべきだとの意見も出された。18年6月には朝日新聞がASTRID計画に協力する日本政府に疑問を示す記事を掲載している。

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シラクが1995年に核実験を再開した時、「知識の伝達」という言葉が盛んに使用された。英国は核保有国だが、核爆弾は米国から買ったもので、自前で製造していない。フランスが「核の確実性、信頼性、安全性やシミュレーション実験移行への準備」として核実験にこだわったのは、核爆弾に関する物理的、数学的な知識はもとより、様々な技術、つまり核に関する重要な知識を若い世代に伝達するためという含意だ。

(略)

フランスは高速増殖炉「スーパーフェニックス」を泣く泣く廃炉にした過去もある。1976年12月、「夢の原子炉」との鳴り物入りで、フランス中部リヨンに近いイーゼル地方で工事が始められ、10年後の1986年12月に運転を開始した。EDFをはじめ、西独(当時)、英国、イタリア、ベルギー、オランダの各電力会社が出資した大計画だったが、運転された期間よりも、事故で運転停止している期間の方がはるかに長いという印象が徐々に強くなる。

当時のフランスはまだ、「原発大国」を誇り、国民もスーパーフェニックスの稼働と事故中止に一喜一憂した。1997年6月、ジョスパン首相(当時)が「放棄する」と発表し、98年12月30日に停止した。当時は、右派のシラク大統領の下に社会党のジョスパン首相がいるという「保革共存政権」の時代。シラクは98年7月14日の「革命記念日」に、スーパーフェニックスの「放棄」を非難している。シラクがASTRID計画を開始したのは、スーパーフェニックス放棄に対する怨念があったのかもしれない。

続きは高速実証炉断念。「原発大国」フランスは曲がり角

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