東京電力福島第一原発で8月初め、1、2号機建屋のそばにある排気筒(高さ約120メートル)の解体が始まる。複数の損傷が見つかった筒を、大型クレーンで上から切断装置をつるして半分に切る前例のない困難な作業。東電は来年3月までに終えたいとしているが、猛暑や台風の影響も受けかねず、作業員から不安の声が漏れる。(片山夏子、小川慎一)
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天候頼み
解体が夏にずれ込み、暑さ対策も課題だ。作業員の熱中症防止のため午後2~5時は作業ができず、実働はほぼ午前中のみ。筒は約2~4メートル刻みで切断するため、切断して地上に下ろすまでに1回7~10時間かかり、1日の実働時間いっぱいを使う必要がある。
海に面する福島第一は風が強く、秋にかけて台風も接近する。クレーン作業は10分間の平均風速が秒速10メートル以上になると中止するきまりだ。クレーンでつるす切断装置は2種類あり、重さは約20~40トン超。強風で揺れた装置がクレーンにぶつかってアーム部分が折れる危険もある。
構内ではこれまで、クレーンを使った高さ100メートルを超える高所作業は行われていない。「風速計をにらみながらになる。突風は怖い。ひとつ間違えれば命に関わる」と現場監督の一人。別の作業員は「装置やクレーンを100台以上のカメラで監視するが、それでも足りないのでは」と指摘する。
人も金も
準備も本番も長引くほど作業員の被ばく線量が高くなる。排気筒は事故時、1号機原子炉格納容器内の圧力を下げるため、放射性物質を含む水蒸気を放出する「ベント(排気)」に使われた。周辺の線量は毎時0.3ミリシーベルトと、屋外では今でも高い場所の一つだ。
切断装置は排気筒から200メートル離れたバス内で遠隔操作するが、排気筒近くに設置したクレーンは有人操作で、運転室内を鉛の板で囲み放射線を遮る。クレーンの高さ不足は、アームを伸ばすのではなく、クレーン自体を筒に近づけてアームの角度を上げて補う。作業員の一人は「被ばく線量がかさめば、ベテランの作業員が途中で抜ける可能性も出てくる」と心配する。
福島第一では、3号機使用済み核燃料プールの核燃料取り出しで仕様通りの機器が製造されないなど、単純ミスが目立つ。経済産業省のある担当者は「2年前に東電の経営トップが代わり、福島第一への熱意が感じられなくなった。人と金を出し渋っているのではないか」と話した。