福島原発事故と子供の甲状腺がん via 北海道新聞

福島原発事故と子供の甲状腺がん

 東京電力福島第1原発事故当時18歳以下だった福島県民約38万人を対象とした甲状腺がん検査で、これまでに200人近くが、がんまたはその疑いと診断された。医師や専門家でつくる福島県民健康調査検討委員会は「(原発事故による)放射線の影響とは考えにくい」との中間報告をまとめている。もともと「100万人に数人」とされた小児の甲状腺がん。桁違いに多く見つかることをどう考えればいいのか。

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■過剰診断で発見数増加 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長・津金昌一郎さん

チェルノブイリでも98年から3年間、事故当時汚染地域に住んで18歳未満だった約1万3千人を対象に検査したところ新たに44人に甲状腺がんが見つかりましたが、うち11人は被ばくの影響とは考えにくい線量でした。原発事故がなくても甲状腺がんになったと考えられる子供はおおむね0・1%だったのです。90年代に香川県で約1万1千人を対象に行った検査でも29歳未満の女性の0・46%で甲状腺がんが見つかった。10代でもチェルノブイリと同じくらいの0・1%程度発見されて不思議はない。福島のように30万人検査すれば0・1%は300人です。

 ただ、被ばくのせいで甲状腺がんが増えたとは思いませんが、これほどの数の子供たちが、がんと診断されてしまったことについては、原発事故のせいであるのは間違いありません。

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■被ばく影響 否定できず 神戸大教授・牧野淳一郎さん

 福島で見つかっている甲状腺がんについて、県民健康調査検討委は原発事故による被ばくの影響は「考えにくい」としていますが、公開されているデータを見る限り影響がないと断言はできません。影響が全くないと仮定すると説明のつかない不思議なことが起きているからです。

 一つは2014年度に始まった本格検査で甲状腺がんと診断された人数です。症状のない人も含めて検査したので多く見つかったという説明は11~13年度の先行検査では言えても本格検査には当てはまりません。先行検査で見つければその後はあまり見つからないというのが専門家の暗黙の前提だったのに、本格検査で既に80人超と想定よりずっと多く見つかっています。

 もう一つは地域差です。原発に近い地域で多くがんが見つかっている。しかも本格検査でその傾向が強まっている。地域差が出るのは被ばく量の違いと考えるのが素直な解釈です。

 他にも、本来女性に多いはずの甲状腺がんの男女比がおかしくなっていることや、事故当時5歳以下だった子供にも見つかったことなど、チェルノブイリ原発周辺で見られたような、被ばくの影響を示唆するデータが本格検査で出てきています。

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 検討委は悪い結果を出すのを先送りしているように見えます。検討委が2年前に出した「被ばくの影響とは考えにくい」との中間報告はあくまで先行検査の結果を基にしたものです。本年度からは3回目の本格検査が始まっていますが、まだ1回目の本格検査の結果に関する見解が公式に出されていません。不思議なことの説明に窮しているのが実情ではないでしょうか。

 地域差が見えづらい統計処理を行ったり、検査ごとに公表の仕方を変えたりと、意図的かどうかは別にして、私たち外部の人間が被ばくの影響があるかを調べにくくするような制度設計になっている点も問題です。対象の漏れも見つかっており、検査の信頼性が揺らいでいます。

 国や県の立場からすると、被ばくの影響はないという結果でないと困るでしょう。しかし、福島の子供たちの甲状腺がんをどう考えるかは、この国の科学や民主主義が問われる問題です。皆さんには、国や県の専門家の言うことが必ずしも科学的で正しいとは限らないことを心にとめておいてほしいと思います。

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16年3月の中間報告では《1》推定される被ばく線量がチェルノブイリと比べて「はるかに」少ない《2》チェルノブイリで多発した事故当時5歳以下の子供のがんが見つかっていない―などを根拠に「被ばくの影響とは考えにくい」とした。今年3月に報告された最新データによると、昨年末までに196人が、がんまたはその疑いと診断され、事故当時5歳以下でも見つかっている。(報道センター 関口裕士)

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