福島県浪江町の帰還困難区域で4月29日に発生した「十万山」の山林火災で、福島県放射線監視室が始めた大気浮遊じん(ダスト)の測定数値が上昇。それまで放射性物質の飛散を全否定していた福島県も、9日夜に更新したホームページで「測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を改めた。県放射線監視室は「今後も数値の動きを注視していく」としているが、県民への注意喚起は無く、広報課の「周辺環境に影響が及んでいる事実は一切ありません」の文面も残されたまま。改めて危機管理の姿勢が問われそうだ。
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浪江町では、これまでの最高値のほぼ倍。双葉町や大熊町では約4倍の測定結果となった。採取時間はわずか2、3時間程度のため、測定の精度が決して高くない事は県の担当者も認めるところ。それでも数値は上昇した。気象庁によると、8日の浪江町は、最大瞬間風速が20.3メートル(西南西)だった。
4月29日に山林火災が発生して以降、一貫して放射性物質の二次拡散を否定してきた福島県庁も、この日は「原因については、現時点で判断することはできませんが、今回の山火事の特殊性である落葉の堆積層への火の浸透に加え、ヘリの運行にも支障を来すような西寄りの強い風が終日観測されていることなどにより、測定地点の周辺の土ぼこりや焼却灰の舞い上がりの影響も否定できません」と表現を変えざるを得なかった。データの公表が遅くなったのは、文言や表現に関して関係部署間での調整に時間を要したからだった。〝負の情報発信〟に消極的な福島県庁としては、時間をかけて練りに練った末に「舞い上がりの影響も否定できません」が精一杯の表現だった。
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長年、協力会社の幹部として原発に携わってきた浜通りの男性は「普段なら枝や葉が覆い尽くしてそんなに舞い上がるとは思えないが、これだけ広範囲で燃えてしまえばフタが取れたのと同じ。強い風が吹けば当然、二次拡散すると考えるのが自然だ。大げさでも何でも無い」と指摘する。
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定例会見では、読売新聞の男性記者が紀伊民報(和歌山県田辺市)をやり玉にあげた。今月2日の夕刊コラム「水鉄砲」で浪江町の山林火災を取り上げ、「放射能汚染の激しい地域で山火事が起きると、高濃度の放射線物質が飛散し、被ばくの懸念がある」、「原子炉爆発から6年が過ぎても、収束がままならない事故のこれが現実だろう。政府も全国紙も、この現実にあまりにも鈍感過ぎるのではないか」などと書いた事に対し、直接的な表現は避けているものの福島県として抗議するべきだと迫った。
内堀知事は「県としてなすべき事は正確な情報発信だ」と述べ、コラムに関する対応への言及は避けたが、内堀知事の言う「正確な情報発信」とは「安全」を念頭に置いたものだろう。地元紙の福島民友も9日付の紙面で「正確な情報発信」、「空間線量、大きな変動なし」などの見出しを立てた。行政もメディアも2011年3月から進歩していない。コラムを掲載した紀伊民報社には抗議や取材が殺到。8日付の同コラムで「火災は8日目に鎮圧され、新たな拡散は心配するほどではなかったというのだ。そうなると、僕の不安は杞憂(きゆう)であり、それによって多くの方に心配をかけ、迷惑を与えたことになる。まことに申し訳ない」と陳謝したが、改めて次のように問題提起もしている。
「福島第1原発の事故で汚染され、そのまま放置された地域での山林火災への対応、常に放射性物質の飛散量に気を配って生活している人たちのこと、内部被ばくリスクなどについて考えると、いまも心配でならない。そうしたことについて政府の関心が低いように見えることにも変わりがない」
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