(抜粋)
■「原爆と原発」「放射能と人体」著者、科学者・落合栄一郎さん寄稿
歴史をたどってみると、何か大きな発見があると、人類はそれをまずは武器に利用しようとしてきたことがわかる。人類の困った性である。莫大(ばくだい)な費用をかけて核分裂を兵器にすることに、まずは第2次世界大戦中に「マンハッタン計画」を進めた米国が成功した。この莫大(ばくだい)な費用は、開発に関係した企業に多大の利益をもたらした。そして、世界の大国は相次いで、核兵器の開発に躍起となった。
兵器としての開発が済むと、そのノウハウを生かして、さらに核から利益を得るべく、「原子力の平和利用」と称して原発を推進した。原爆の残酷さを 知る日本は、それを心情的に和らげるべく、アメリカから「原子力(核)エネルギーは平和的目的に使うこともできるのですよ」と説得された。そのため、日本 のような狭い島国の、しかも地震が起きやすい国土の上に、54基もの原子炉を建設してしまった。
こうした核産業の開発途上では、負の側面、つまり放射能の生命への危険に気づいた研究者もいた。しかし、米国の科学者ゴフマン博士らによると、こうした問題を上司に報告した研究者は「いまさら危険があるなどとは言えない。否定し続けるしかない」と言われるのが常であった。
ここに、「核を守ろう」とする側の、「いのちの軽視」の原点がある。その後の発展で強大な権力を持ってしまった核産業側は、核産業そのものを否定 するような事実、すなわち放射線の悪影響を隠蔽(いんぺい)し、否定し続ける施策をとってきた。そして、核産業に依存する科学者や専門家もそれを支援して きた。
(略)
放射性物質を 出す源での放出量があいまいならば、それらが、いつ、どこに、どのくらいの量が落ちたか、さらに判断が難しい。この点で最も問題なのは、ヨウ素131とい う核種である。ヨウ素は人間の甲状腺に集まる。甲状腺ホルモンが、ヨウ素を含んだ唯一のホルモンだからだ。したがって、ヨウ素131の分布は、事故直後か ら早急に調査し、住民に知らせる必要があったはずだ。そして、放射性ヨウ素が甲状腺に入る量を少なくするための安定ヨウ素剤を摂取することが必要だった。だが、福島原発事故に際しては、これらすべての点で、日本政府や福島県、東京電力の対応は不適切であった。今や福島の子供たちの間での甲状腺がんの多発(福島県民健康調査で166人が悪性及び悪性疑いと診断)は驚くべき数である。
日本の「核を守る側」の主張は、「100ミリシーベルト以下の低線量では、がんになる心配はない」という言説に代表される。本当にそうだろうか。
放射線の破壊力は、それがもつエネルギー(Eとする)で決まる。このエネルギーをもった放射線が、何個(Nとする)体に入るかが、シーベルト値 (NE)を決める。これは何を意味するか。放射性粒子1個の破壊力で、例えばDNAが傷つけられる確率をrとすれば、それが100個浴びせられられると、 単純に言えば、確率は100倍(100r)になる。シーベルト値は、すなわち確率を表すものであり、健康障害の深刻度をあらわすものではない。すなわち、「100ミリシーベルト以下では、がんのような深刻な障害は起こらない」という意味ではない。500ミリシーベルトで起こるがんと同じがんが、50ミリシーベルトでも起こりうる。ただ、その確率が低いというだけだ。
50ミリシーベルトを浴びてがんになる人の数は、500ミリシーベルトを浴びてがんになる人の数のおよそ10分の1である。これは、非常に大雑把な考えであるが、多くのデータが、このことを証明している。先にあげたチェルノブイリ後の子供たちの甲状腺がんのデータでも明らかである。
(略)
「環境にやさしい」という理由は、化石燃料と違って、温室効果のある二酸化炭素を発電に際して出さないという事実である。それは事実ではあるが、原発で発生する熱のうち、3分の1しか電力に変換されず、残りの3分の2は熱として環境に放出され、環境を直接に温め、地球温暖化に寄与している。生み出す放射線が人間や環境に与える影響や、まだ解決もみていない放射性物質の後始末のためのエネルギー使用量も入れれば、とても環境にやさしいなどとは言えないだろう。
福島原発事故で溶けた燃料棒の行方や状態なども、事故から5年たっても分からない。それが発する放射線量が高すぎて、人間が近づけないからだ。原発から出る高レベル放射性廃棄物をどう処理するかについても解決策がない。
核と人類は共存できない。原爆は言うまでもなく、チェルノブイリや福島で事故を起こした我々の世代は、原発もすみやかに全廃して、未来の地球にこれ以上の放射性物質を積み増してはならない。
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