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5年目を迎えた「3.11」(下)「国」と「東電」に翻弄される被災民 – 吉野源太郎 via 新潮社Foresight

原発ADR(裁判外紛争解決手続き)とは、福島第1原発の事故で受けた住民の損害賠償をできる限り早く実現させるために、訴訟や東京電力への直接請求以外の新たな窓口として、国が設置した制度である。

被災者が原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)に賠償請求を申し立てると、弁護士の仲介委員が申し立て人の事情を聴取し、国の原子力 損害賠償紛争審査会が決めた「指針」に照らして和解案を決め、東電と被災者に提示する仕組みだ。きちんと機能すれば、訴訟や東電に直接請求する方法より も、被災者が短期間で簡便に賠償を受けられる利点があるとされる。

この制度ができた背景には、原発被災者が膨大な数にのぼるという今回の事故の特徴がある。なかには農民や高齢者も多く、訴訟に必要な手続きや証拠 集めなどは事実上難しい。高齢者であれば、避難生活の中で消耗して、やがては生命の危険にさらされることもあるだろう。手っ取り早く賠償金を手にできるこ とは現実問題としてきわめて大事なことだ。

この制度が今、壁にぶつかっている。最近になって、和解案に対する東電の強硬な拒否姿勢が目立つようになったからだ。特に目立つのが、昨年9月にレポートした浪江町の集団申し立てのケースである(「始まった『福島一揆』――東日本大震災から3年半」2014年9月11日)。

「加害者」が「公平」を説く欺瞞

浪江町は原発事故による汚染のために、全住民が今も避難を強いられている。今回の申し立て人は約1万5000人と、町の人口の8割に達する。その規 模の大きさに加え、普通、弁護士が務める代理人を馬場有町長が自ら買ってでたことなどが、東電にも他地域の被災者にも衝撃を与え、原発賠償の本丸的な存在 になった。

一昨年春に行われた申し立てで、町と住民側は、国の指針に基づいて東電から支払われている「月額10万円」の精神的損害に対する慰謝料を「一律 35万円に増額するよう」求めた。これを受けてADRは「一律15万円」の和解案を提示した。町側はこの和解案を受け入れたが、東電は拒否。その後、 ADRから出された3回にわたる「和解受け入れ勧告」もかたくなに拒否したまま現在にいたっている。

既に和解案提示から2年近く。迅速な解決を目指したはずのADRが、膠着状態の下で存在意義を失いかねない危機的な事態に直面している。

「一律の増額和解は他の被災申し立て住民に不公平」「和解は住民個別の事情に応じて行う」というのが東電の拒否理由である。しかし東電は本来、倒産 をしても不思議はない企業だった。賠償金の支払いなど原発事故処理のための巨額の負担を強いられ、国の税金投入によって辛うじて救われた経緯は、事故の大 きな負の遺産とされている。

いわば、特別扱いをしてもらって国民に迷惑をかけながら生き残った加害者だ。その企業が、被害者に向かって「公平」の原則を説くとは、悪い冗談に も聞こえるが、この東電救済の経緯と浪江町に対する現在の東電の態度にこそ、福島と原発事故処理問題の本質を理解する重要な鍵がある。

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被災住民間の深刻な「対立」

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国という大スポンサーを持つ東電は余裕がある。被災者を分断して待っていればいい。馬場町長の背後に1万5000人の町民がついているとはいえ、 いったん彼らの団結が崩れたら、勝負はたちまち決まってしまうにちがいない。住民分断のあの手この手は原発立地の最初のころから、東電のお手のものだっ た。様々な名目で地域への支援策や協力金に差をつけて住民同士の反目を誘う。今、まさにその作戦が浪江でも展開されている。

東電は今回、さらに強力な道具を手に入れた。既に知られているように、原発からの距離によって地域に線引きをして賠償の支給額に差をつける制度だ。これが住民の間に深刻な対立や反目を生み出した。

たとえば、最も線量の高い帰還困難区域の住民には合計1450万円が支払われたのに比べ、低い線量の避難指示解除準備区域などの住民は、毎月10 万円の精神的損害への慰謝料しか受け取れない。一括支払いを請求しても最大61カ月分、610万円までという決まりになっている。

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「嘘で固めた国」

そして何よりも、住民の心が離れていったのは、被災地の将来と住民の苦しみを真剣に考えない国の本心が露骨になってきたからである。竹下亘復興相 は3月8日、「今後は地元自治体も自立への強い意志をもって復興費用を負担してほしい」と公言した。住民の生活より国の財政。 国の姿勢の背後に見えるのは、東日本大震災に関しても国の財政支出をできるだけ減らしていくという固い意志である。

住民は知ってしまったのである。商業施設や医療施設、学校などの生活インフラはおそらく将来も貧弱なままだ。国は浜通りに中高一貫校を新設し、芸 能タレントらを教師に呼んで来るという。その代わりに、県民の誇りだった伝統ある県立高校は廃校になる。こんな新設校に未来の福島を担う人材が育つのだろ うか、と心ある人々はあきれる。国は自分たち被災者の幸福のためにカネを使う気はないと思い始めた県民の心は福島を離れていく。自治体や地元マスコミなど によるアンケートでは、「戻る意思がない」と答える住民は、回を追うごとに増えている。

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