(原発利権を追う)知事選は建設会社、便利な裏金だった via 朝日新聞

(抜粋)

「私がやってきたことは社内でも一握りしか知らない」

記者が元役員に初めて接触したのは昨年12月末だった。今年6月末まで取材は15回、30時間を超えた。毎回、取材を終えて元役員の発言について 調べると、10年以上前に会った人物を含めて氏名の表記や読みはいつも正確だった。会った場所や当時の様子も詳細で、相手の人柄や趣味も事細かに記憶して いた。「元役員は社内では頭の切れる緻密(ちみつ)な人物という評判だった」(中部電元幹部)という。

秘書部の業務はベールに包まれている。社長や会長の財界活動の補佐や幹部人事の策定に関わり、政治家との窓口も務めた。「秘書部は政界対策を担い、社内で隠然たる力があった」(中部電元首脳)という。

元役員が最初に記者に打ち明けたのは、社の交際費から合法的に支出した「オモテの金」の使い道だった。

電力各社は1974年に自民党への企業献金廃止を決めたが、自民党政治資金団体国民政治協会」への献金は幹部社員による個人献金で続いた。中部電は「個人の判断で、会社としては関知していない」と説明してきたが、元役員はそれがごまかしであることをはっきり認めた。

「肩書ごとに決められた定額を、会社が給料から引き落とすなどして徴収し献金させていた。そこに個人の意思はなかった」

政治資金収支報告書に残らない形で自民党有力議員のパーティー券を購入したこともあったという。

「グループ企業だけでなく、大手建設会社にも協力を仰いだ」

企業献金廃止の業界ルールを完全に破っていたことも明らかにした。

「首相や首相経験者、東海地方の国会議員側に夏と年末の2回、100万~300万円を議員会館や個人事務所に持参した」

一方、政界対策費を建設会社に工面させる「ウラの金」の存在を記者が聴き出すのには時間がかかった。

(略)

「選挙はいろいろと金がかかる。自由に使えるカネは喜ばれた。国会議員と違い、知事は資金集めに困っている人が多かった」

記者は元役員に実名証言を依頼してきたが、証言が「ウラの金」に及び、「実名だけはさすがに勘弁してほしい」と固辞された。元役員は個人的な感情 はほとんどはさまず、事実関係を淡々と語り続けた。自らが関与した不正を明かした理由について「言葉にするのは難しい」と言い、顔をしかめて続けた。

「裏金を扱う仕事はブラックボックス。とても嫌だった。でも、電力会社が裏金を使わずに済む時代が来るとは思えない」

元役員が証言した裏金問題は、刑事事件としての時効が成立している。(砂押博雄、板橋洋佳)

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