社説:新エネルギー計画 原発回帰は許されない via 毎日jp

(抜粋)

政府が中長期的なエネルギー政策の指針になるエネルギー基本計画の素案をまとめた。民主党政権の「原発ゼロ」路線を覆し、原発重視の姿勢をはっきり打ち出した。

しかし原発の安全神話は崩れた。経済性にも疑問符がつく。核のゴミの処分問題も解決の糸口さえ見えない。原発依存からは脱却すべきである。この政策転換は容認できない。

素案は、基本計画を議論している経済産業省の審議会で示された。年内に成案としてまとめ、年明けの閣議決定を目指すという。

 ◇代替電源の開発を促せ

基本計画は、東京電力福島第1原発の事故をきっかけに見直しが始まった。民主党政権は昨年、計画の基に なる「革新的エネルギー・環境戦略」をまとめ、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」との方針を示した。そのため に原発の40年以上の運転は認めず、新設・増設も行わないという原則を決めた。

今回の素案は一転して原発を「重要なベース電源」と位置付けた。将来的に依存度を下げていく考えは示したものの、長期的に一定割合を確保すると明記した。一方で「新増設は行わない」という原則は盛り込まず新増設の余地を残した。「原発ゼロ」はご破算にしたということだ。

(略)

原発から出る「高レベル放射性廃棄物」の最終処分問題も残る。素案は「国が前面に立って取り組みを進める」との方針を盛り込んだ。自治体が処分候補地として手を挙げるのを待つ方式から国が自ら候補地域を示す方式に転換するという。

 ◇国民不在の審議過程

現世代の責任として国が最終処分に積極的に取り組むのは当然のことだ。しかし、候補地選定が難しいことに変わりはない。小泉純一郎元首相の「トイレなきマンション批判」に基づく「原発ゼロ」発言をかわすための方策とも思える。

再稼働を進めるために積極姿勢を見せても、根拠が乏しければ国民の理解は得られまい。最終処分問題の解決のためにも原発を減らしていく具体的な計画を示すべきだ。

「核燃料サイクル」を原発事故前と変わらず「着実に推進する」としたことも問題だ。日本は再処理済みの プルトニウムを国内外に44トンも所有している。原爆5000発分に相当する。消費するあてもなく、プルトニウムを生み出す核燃料サイクルを続ければ国際 的な疑念を招くおそれもある。

実用化のめどが立たない高速増殖原型炉「もんじゅ」や再処理工場の安全性、技術的な困難さなどを考え合わせれば、核燃料サイクルにはこの段階で幕を引くべきだ。

確かに安倍晋三首相は、前政権の原発政策を見直すと明言していた。しかし、一方で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」という目標も示していた。政権交代をもたらした昨年末の衆院選で自民党が掲げた公約でもある。

前政権の政策は半年以上にわたる審議会での議論やさまざまな国民的議論を踏まえて決められた。簡単にほごにすることは認められない。

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