「黒い雨」。原爆投下後の広島に降った雨を作家の井伏鱒二はそう表現した。放射能を大量に含んだ雨が、核攻撃を受けた日本国民に二次被ばくという追い打ちをかけ、深く心と体をむしばんだというのである。
風呂場でズルッと抜ける長い髪。いや応なく死と向き合うことになる美しい娘…。先日葬儀が営まれた田中好子さんは同名の映画(1989年)で、黒い雨を浴び「ピカに遭った」女性を体当たりで演じ、アイドルから女優へ見事に脱皮した。あえて使われたモノクロフィルムが、彼女の白い肌と漆黒の髪を質感豊かに切り取り、生と死を鮮やかに対比させて見せた。目に見えない放射能の恐怖にむせかえるような気がした。
続きは『天地人20110430』から。