「避難所のリーダー格を含め複数の男性から暴行を受けた。『騒いで殺されても海に流され津波のせいにされる恐怖があり、誰にも言えなかった』」(女性)
「避難所で夜になると男の人が毛布の中に入ってくる。仮設住宅にいる男の人もだんだんおかしくなって、女の人をつかまえて暗いところに連れて行って裸にする」(20代女性)
東日本大震災では、避難所での女性や子どもに対する性暴力や、家庭内暴力(DV)があった。これは、「東日本大震災女性支援ネットワーク」が2013年に発表した調査で明らかになった。
ただ、当時はほとんどこの事実に関する報道はされていなかった。どんな内容だったのか、あれから10年で災害と性暴力をめぐる状況はどう変わったのか。調査をまとめた一人である認定NPO法人「ウィメンズネットこうべ」(神戸市)代表理事の正井禮子さんに聞いた。
「対価型」性暴力に注目
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・津波で家族が行方不明になった20代女性に、避難所で物資の搬入や仕分けに関わっていたリーダー格の男性が、支援物資を融通することをほのめかして性的関係を強要した。
・自称「支援活動」をしている男性が、支援者として女性に近づき、不安になっている女性に自分の家に「避難」を勧める。
・夫が震災で死亡し、娘と避難する女性に避難所のリーダーが「大変だね。タオルや食べ物をあげるから夜、○○に来て」と性行為を強要した。女性は「嫌がったらここにいられなくなる。娘に被害が及ぶかもしれない」と応じざるを得なかった。
・災害後に被災者の女性の元に元交際相手が車で駆けつけて関係を再開。暴力や性的暴力をふるった。女性は災害後に不安になり頼る人がほしかった。
調査は、災害後、特に経済的・社会的に弱い立場に置かれやすくなった女性の弱みや不安につけこみ、優位な立場にある男性との社会的な力関係の差を利用した性暴力が行われていたことを明らかにした。
また、家庭内暴力も多数報告された。
・以前より暴力があり、若い頃は首を締められることも。地震・津波によって夫の仕事が減り、家にいる時間がながくなった。震災後にイライラしはじめ、妻に対し大声で怒鳴るなどが始まった。震災前には妻が日常的に通っていた場所に行く公共交通手段がなくなり(夫に送迎を頼まざるを得ず)緊張度が高まっている(50代女性)。
10年で「何も変わっていない」
この調査の対象となった、東日本大震災からまもなく10年になる。
あれから、災害対策基本法は改正され(2013年)、市町村に避難所の生活環境整備の努力義務が課された。2020年には、内閣府男女共同参画局の避難所運営ガイドラインが作成された。
ガイドラインには、正井さんらの調査報告や提言内容も盛り込まれている。それにより、10年で状況はずいぶん改善されたように見える。東日本大震災で報告されたような性暴力は、今後はもう起こらないと言えるだろうか?
正井さんは即座に「そんなことはない。何も変わっていない」と断言した。
どういうことだろうか。
実は、2011年の東日本大震災の当時も、既についたてや更衣室の設置など女性特有のニーズを考慮するようにと求めた文書は内閣府から通達されていた。
しかし、地方自治体やNPOなどを対象にした後の調査で「知っており、市町村や関係部署・団体等と連携して対応した」と回答した団体は、わずか4.5%でしかなかったことがわかっている。
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正井さんらも海外での調査事例を参照し、当初は直接避難所に問い合わせて女性から聞き取りをしようと試みた。しかし、避難所のリーダーたちから「性暴力の調査とは何だ。うちの避難所に犯罪者がいると言うのか」と、すごまれることも多かったという。
正井さんが制度以上に重要だと指摘するのは、性暴力やDVの背景にある日本社会の女性の貧困やジェンダーの不平等を改善するということだ。
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また、正井さんは避難所のリーダーを務めた数少ない女性から、こんなエピソードを聞いたという。
ある避難所で、他に引き受ける人が誰もいなかったという理由で女性がリーダーになっていた。3カ月が経ってその自治体の避難所連絡会ができ集会に行ったところ、女性リーダーはその避難所だけだったことがわかった。戻ってそのことを避難所で報告すると『女性がリーダーだと、うちの避難所だけ不利になるのでは』との懸念の声があがり、その女性に対して『(半壊の)家があるじゃないか』と出ていくように言われた。女性はショックから精神的に不調をきたし、本当にその避難所を出ていくことになった。
「コミュニティ再建だと言われるが、ここにあるのは女を黙らせるコミュニティでしかない」。避難所の立ち上げから奔走してきた女性は正井さんにそう語った。
正井さんは阪神大震災でも、東日本大震災でも「避難所リーダーの男女別の人数を知りたい」と各機関に問い合わせたが、最後までその情報さえ得ることができなかった。
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平時にも弱い立場にある女性が、災害時にはより困難になる。阪神大震災や東日本大震災で痛感した、社会の構造は全く変わっていないと感じている。
「DVの暴力から逃げ出し避難しても、コミュニティを追われた女性たちには貧困が待っている。日常から女性に対する性暴力や暴力はあるんですよ。そういう被害や、男女の不平等、性被害が無視されている現状に目を向けていかないと、災害時だけ女性が活躍したり、女性の意見が通ったり、そんなことにはならないですよ」
一方で、正井さんがわずかに希望を感じていることもある。それは、2019年から始まった、性暴力に抗議するフラワーデモが全国で開かれていることだ。
阪神大震災の被災地で性暴力があったことについて発表した正井さんは、ある雑誌で「嘘」と断定されて世間からのバッシングを受け、それから10年間災害と性暴力についての発言を控えていたという過去がある。
東日本大震災でこれほど大規模な調査を実施したのは、災害時に暴力を受けた女性たちの声が、決して嘘なんかではないと証明するためでもあった。
「2019年6月に初めて開催した神戸市でのフラワーデモでは、参加者が自分も話したいと次々とマイクを握っていました。若い人たちが多かったのが嬉しかった。先日の森喜朗さんの発言でもすぐに若い人たちが動いて、10万筆を超える署名が集まりましたね。ずっと変わらなかったと言いましたが、やっぱり今からは変わり始めるんじゃないかなって。やっと皆が行動を始めたんじゃないかなって。そうであってほしいって期待しているんです」
あの頃と比べると、発言する女性、そして女性たちの声を代弁し守る人々が増えたことには希望を感じる。正井さんはそう話した。